「なにしろ楽曲が『少女A』に決まったときから、ピリピリしていたからね。確か、『キャンセル!』(『少女A』 の後に出た2ndアルバム『バリエーション〈変奏曲〉』収録曲)のレコーディングのとき、当時のディレクター・島田雄三さんが僕を気遣ってスタジオで彼女と会わせてくれたんだけど、本当に形式的にサッと一言二言、交わしただけで。目も合わせてくれなかったかな。“あっ、この子は俺のこと、キライなんだな”って(笑)。『少女A』も、シングルでヒットさせるためには仕方ないって思って、歌ったんじゃないかな。
でも、悪い子だとはまったく思わなかったね。寂しがり屋というか、人懐っこいところが本当はあるんだと、なぜだかすぐに分かった。冷たいとか、意地悪な人という印象もなく、むしろ自分に近いものを感じたね。だから、嫌な思いは全然していないよ。あの対面で彼女の二面性や純粋な部分を感じられことが、『1/2の神話』の作詞につながったんだと思う」
『1/2の神話』『禁区』制作の背景
シングル4作目となった『1/2の神話』は、しっとりとしたバラードの前作『セカンド・ラブ』とは打って変わって、激しいロックチューン。売野のワークショップ仲間で、まだデビュー前だった大沢誉志幸が作曲を手がけたが、売野にとっても大沢にとっても初のオリコン1位(6週連続)、『ザ・ベストテン』でも7週連続1位となった。
「この『1/2の神話』は最初、『不良1/2』ってタイトルにしていたんだけれど、レコード会社から『1/2の神話』に変更されたんだ。でも、歌詞はそのままで、むしろ歓迎されたんじゃないかな。とにかくタイトルだけ変えたい、と。
そういえば、『禁区』(シングル6作目)のときも、“明菜が拒否反応を出すだろうから、タイトルだけ変えてくれ”って。歌詞にこのワードが出てくるのはいいけれど、タイトルになったときに彼女が抱く印象が気になっていたみたい。それを恐れて、仮に付けさせられたのが『芽ばえ』だった。“発売する直前に、『禁区』にすり替えるから”ってディレクターに言われてね」
ちなみに、売野が中国に行った際、倉庫に大きく書かれた“進入禁止”を意味する“禁区”という文字があまりに衝撃的で、タイトルに使ったのだという。その『禁区』がどのようにして生まれたのかも語ってもらった。
「『禁区』を作ることになったときに、作曲を担当した細野(晴臣)さんと会って、詞を先に書いたものと、曲を先に書いたものをそれぞれ作って交換しようということになって。そのときに詞先で誕生したのが『禁区』。だけど、細野さんが曲先で作ってくれたものが、なぜだかボツということで、俺には渡してくれなかった。
そのメロディーに松本隆さんが詞を付けたのが、YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)が歌った『過激な淑女』だよ。だから、(ちまたでウワサされたように)松本さんが明菜向けに書いた歌詞が、明菜サイドの問題でNGになった、というわけではないんだ」