作り手に聞く、オリンピック公式グッズ事情
◆唯一の職人が作る素朴な縁起人形・佐土原人形【宮崎県】
「素朴な人形ですが、とても存在感があるんです。それは古くから人々が人形に込めてきた思いが表れているのかもしれませんね」
そう語るのは下西美和さん。宮崎県宮崎市佐土原町の一部に江戸時代から伝わる伝統の佐土原人形の職人だ。
実はこの佐土原人形、同県内でも知らない人が多い、知る人ぞ知る伝統工芸品なのだ。
粘土を原料とした土人形で、モチーフは4種類に分けられる。初節句の家に贈り、床の間などに飾る雛人形やかぶとなどをモチーフにした『節句人形』。えびすや大黒など『縁起人形』。歌舞伎のシーンを表した『歌舞伎人形』。人形が作られた時代の流行りを表現する『風俗人形』だ。
「人形は職人の家に代々受け継がれてきた型に粘土を押し当てる“手押し型”という製法を用います」
粘土は乾燥させ形を整え、900度以上の温度で焼く。焼きあがった人形に色を塗り、絵を付ける。この工程をすべて1人の職人が行うのだ。
作業は重労働。継ぐ人がおらず、職人たちは高齢化し、次々に第一線を離れていった。現在、職人は下西さんただ1人なのだ。
下西さんは佐土原人形に魅せられ、10年ほど前に弟子入り。現在85歳の師匠から技術を受け継ぎ、修業を重ねている、次世代の人形師。
元は博物館の解説員だった。
勤務先でたまたま所蔵されていた古い佐土原人形と出会ったことで運命が変わった。
「ひび割れていましたが、存在感があってキラキラと見えたんです」
絵付け体験講座や師匠の手伝いなどを経て佐土原人形の世界にのめり込んでいった。
「東京2020大会の公式ライセンス商品として作ったのは伝統的な“犬の人形”です。犬は多産、お産が軽いなどの象徴で、命がつながる縁起のいい人形です」
まさに人と人とがつながる、平和の祭典にはぴったりのモチーフなのだ。
「地方にある小さな伝統工芸品ですが、こうした世界があることを多くの方に知ってもらいたかった。ですので、生きているうちにこうしたチャンスに巡り合い、うれしかった」
佐土原人形は50年、100年とその姿を残すのも特徴。
「孫やひ孫に譲りたい、と話す高齢者もいます。人形と一緒に東京2020大会の思い出も次の世代に受け継がれるといいですね」