夫は中絶費用の支払いを拒否

 翌日、夫は手術の同意書に署名。そして1週間後に好江さんは産婦人科を訪ね、人工中絶手術を受け、お腹の子どもは跡形もなく消えてしまったのです。

 そして以下は好江さんが病院で支払った費用の合計、内訳ですが、後で夫が負担してくれると思っていたそうです。しかし、実際には夫は「それどころじゃない」と支払いを拒否。前述の遊興費は小遣いの範囲を超えており、カードローンに手をつけた模様。ローンの返済で手が回らないと言うのです。

<病院に支払った費用の内訳>
中絶前の受診費用 8,100円
手術費 111,240円
処理費 10,800円
術前検診 9,720円
術後検診 3,240円
産科受診 4,500円
計 147,600円

 とはいえ好江さんは長女、長男の母親であることは変わりませんし、専業主婦の好江さんにとって2人を育てていくのに夫の収入は必須です。そのため、離婚したいのはやまやまですが、そのことを悟られないよう、仮面夫婦を続けるつもりだそう。

 筆者は「旦那さんは(妻子への)愛情を完全に失っていますよ。むしろ離婚したいのは旦那さんのほうでは?」と聞くと、「そうやすやすと離婚してあげないのが主人への復讐です」と好江さんは返します。

 術前だけでなく術後も検診等で何度も病院に足を運ぶのも、お腹を痛めるのも、そしてお腹の胎児の命を絶つという喪失感に苛まれるのも、子の母親である好江さんだけです。一方、夫はどうでしょうか? 一度も病院に足を向けず、もちろん、自らのお腹を痛めることもなく、お腹の胎児がいなくなるという喪失感を抱くこともありません。だから「勝手にしろ」と軽口を叩くことができるのでしょう。

 もし、夫が他の女にうつつをぬかさなければ、一流ホテルや高級な食事、そして人気のテーマパークに「夫婦のお金」を使い込まなければ、何よりもう少し、好江さんのことを大事にしていれば、無事に産まれてきた命です。そう考えると不憫で仕方ありません。

「中絶は子どもを殺すことです。罪深いってわかっています。私は60歳になっても70歳になっても罪悪感に苛まれるでしょう。胎児の動いている様子を見て、それでも中絶を選んだのだから」

 最後に好江さんはかろうじて言葉にできた思いを、か細い声で語り、事務所を後にしましたが、うっすらと涙ぐんでいるように見えました。後日、心療内科で「心的外傷後ストレス障害」と診断されたとの報告がありました。そのことは好江さんが被った精神的苦痛やストレス、嫌悪感や不信感がそれだけ大きかったことの現れでしょう。

 夫婦同士の性生活で避妊すべきか否かは極めてナイーブな問題です。恋人同士の場合と違い、避妊するのがマナーだと言いきれません。しかし、好江さんのようにまだ40代の場合、妊娠する可能性があります。厚生労働省によると2020年、中絶したケースのうち、避妊ありは全体の35・4%、なしは47・1%。緊急避妊ありは全体の2・7%、なしは88・0%という結果でした。妊娠を望んでいないのなら、もしもの場合に備え、避妊することも検討したほうがよいでしょう。夫婦の間にやってきてくれた子どもを堕ろすという悲劇に見舞われないように。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/