ホントに居酒屋に集まる
実は射撃機会が少ない
一方で、昔も今も変わらず定番シーンとして描かれているシチュエーションもある。その代表格が、「刑事が居酒屋(または小料理店)で話す」というものだ。
ドラマウォッチャーでコラムニストの吉田潮さんが語る。
「例えば、『特捜9』(テレビ朝日系)は事件を解決すると、メンバーで『一件楽着』という居酒屋で飲むのが定番。前クールに放送されていた天海祐希主演の『緊急取調室』(テレビ朝日系)でも、居酒屋の個室で事件について話していました」
古くは、眞野あずさ演じる女将が切り盛りする品のよい小料理店で、藤田まことが酒を傾ける『はぐれ刑事純情派』(テレビ朝日系)などもあるように、刑事がお店で飲酒し、捜査について語るシーンは“あるある”だ。この点を北芝さんは、「普通に飲みますね」とあっけらかんと笑う。
「もちろん守秘義務がありますから、注意は払います。しかし、お酒が入って同僚と意見を交わそうものなら白熱する。“あいつが犯人だ”なんて話に発展してもおかしくない」
また、居酒屋が選ばれるのには理由があるとか。
「私もそうでしたが、ノンキャリア組はお金がないんです。ですから、高い店では飲めない(笑)。大衆的な居酒屋で飲んでいるほうがリアリティーがあると思いますね。ちなみに、公安はホテルの一室などを貸し切って、そこで酒盛りを開いたりします。立場や役職によって、飲む場所が違うんです」(北芝さん)
刑事ドラマの中でも、忘れてはいけないのが銃撃シーン。犯人と対峙し、「華麗に発砲する」のがお約束だが──。
「ホルスターをはずした後に、拳銃の撃鉄部分にある安全ゴムをはずさなければ発砲できません。ほとんどの刑事ドラマが、安全ゴムをはずす描写をしていない。実際には、あんなに素早くカッコよく撃つことはできませんね」(北芝さん)
なにより、特殊部隊でもない限り、「躊躇なく撃つことが難しい」と北芝さんがつけ加える。
「みなさんが思っている以上に刑事は射撃をする機会が少ないです。よくドラマで、刑事たちが射撃場で銃を撃つといったシーンがあると思いますが、射撃場を併設する警察署は都内でも限られている。迷いを断ち切るかのように銃を撃っていますが、そんなに簡単に銃は撃てませんし、銃弾も無駄遣いできないため、射撃の機会は1年に1回あればいいほうです」
一心不乱に的に向かって銃を撃つ刑事に対して、同僚が「無理は禁物だぞ」的な声をかける……そんなシーンは創作だった。なんでも、銃を撃つ機会が少ないがゆえに、感覚を磨くため素性を隠してサバゲーに参加している警察官もいるそう。
では、「子飼いの情報屋がいて、情報を金で買う」シーンはどうか? これも刑事ドラマの十八番だ。前出の吉田さんも、
「今年放送された『密告はうたう』(WOWOW)は、主演の松岡昌宏が、警察内部の不正隠蔽を描く硬派なドラマ。松岡の後輩刑事が囲っている情報屋をアキラ100%が好演していました。お金で動くけど、最後は後輩刑事への恩義で動いたあげくに殺されてしまいましたが」
と語るように、ドラマの中で刑事と情報屋は、カレーと福神漬けのように定着化しているようにも見える。
「新聞、週刊誌といったメディア関係者をまとめて“聞屋”と言いますが、そういった人たちと情報を交わすケースもあれば、元暴力団員から情報をもらうケースもある。たしかに、情報屋的な存在はいます。ただ、お金を対価にするとは限らない。特に、暴力団関係者などを情報源とする場合、相手の安全を保障するなどもあります」(北芝さん)
かつては取調室でのやりとりがきっかけで、出所後に情報提供が始まることもあった、と振り返る。
「出所した暴力団員は、親身に話を聞いてくれた刑事や気を遣ってくれた刑事に対して、心を開いたりする。その後、情報を定期的に刑事に伝えるといったことが起こりえました」(北芝さん)