「どういうことなの!?」明菜さんは翌朝、LINEで怒ったのですが、男性は「俺たち、付き合っているんだからいいだろ?」の一点張り。そのうち、「知らない! やってない! 全く身に覚えがない!」と逆ギレし始めたのです。
そして明菜さんは話にならない男性に見切りをつけ、警察へ相談しに行ったのは1か月後。当日のショックがあまりにも大きすぎて一歩を踏み出すのに時間がかかったのでした。しかし、明菜さんの勇気ある行動は徒労に終わりました。警察で加害者の名前を尋ねられたとき「わかりません」と答えるしかなかったそう。なぜなら、男性とのつながりはLINEだけ。しかもLINEの表示名はニックネームで、本名ではなかったからです。
さらに「どこでですか?」という質問に「周辺の景色は覚えているんですが」と返したところ、「それだけじゃね」と一蹴。挙句の果てには「話を盛っているでしょ?」と疑われたので明菜さんは「もういいです!」とあきらめたのです。これでは男性との間で「被害届を取り下げる代わりに慰謝料を払って!」という駆け引きを行うことはできません。
明菜さんは恥を承知で共通の知人に打ち明けたところ、「忘れたほうがいい」と慰めにならない言葉をかけられたそう。最終的には「断り切れなかった私も悪いから」と気持ちの整理をし、すべてを忘れることに決めたところ、さらなる災難が襲ってきたのです。
望まない妊娠に中絶を決意
「たった1回でするなんて……」明菜さんは愕然としますが、追い打ちをかけたのは妊娠の事実でした。男に襲われた日以降、胸の張りと急な吐き気に悩まされ、そして予定どおりに生理がこないので「おかしい」と疑ったものの、疑念を持つたびに不安感が最高潮に達します。明菜さんが筆者を頼ってきたのはなかなか妊娠検査薬の使用に踏み切れずにいたときでした。「あのときの後遺症なのかも!? 妊娠であってほしくない!」と。
そこで筆者は「万が一、陽性の場合、何もせずに放置するほうが危険ですよ」とアドバイス。被害に遭った日から2か月後、背に腹は変えられずに検査薬を使ったところ、灰色だった疑問は黒色だと判明したのです。これは男性が避妊せずに行為に及んだことを意味します。明菜さんのお腹の中にいるのは望まざる性交渉の結果、授かった子ども。本来、妊娠は喜ばしいものですが、明菜さんの心は悲しみで埋め尽くされていました。犯した男の子どもを出産する。明菜さんの中にそのような選択肢は存在しませんでした。「堕ろす」の一択だったのです。
本来、手術の同意書には子の母親(明菜さん)だけでなく、父親も署名をしなければなりませんが、現在、男性は明菜さんの電話を着信拒否、メールを受信拒否、LINEをブロックし、音信不通の状態。「あなたにも半分の責任があるんだから書いてよね」と頼める術がありませんでした。
そのため、明菜さんは筆跡を変え、父親の欄には男性の仮名、仮住所を代筆で署名。その同意書を手にし、付き添いもなく、たった1人で病院へ向かったのですが、妊娠の診断を受けたのと同じ病院で2週間後、中絶の手術を受ける様は悲惨としか言いようがありません。結局、明菜さんがひとり被害を受け、男性に何の責任もとらせず、泣き寝入りするしかなかったのです。
「相手が何もなかったように過ごしていると思うと……悲しいです。あれから2年。時間が解決してくれると日々、忘れるように過ごしてきましたが、いつの間にか人を避けるような生活になっていました」
被害の影響でほとんど食べ物、飲み物を口にできず、まともに眠れない日々を送り、すっかりやせ細ってしまったため、心療内科を受診すると冒頭の通り、PTSDと診断されたのです。明菜さんは当時、正社員で働いていた会社を退職。新卒で就職した職場を去るのは苦渋の決断だったようですが、投薬の副作用で毎朝、起床し、出勤することができなくなったので仕方がなかったようです。実家に戻った現在も自傷行為の衝動によって身動きが取れない日があるので、働くことも含め、社会復帰するのは時間がかかりそうです。