高齢者なので会社をクビになる心配はないし、友人や家族との関係が薄ければ、周囲の目も気にならない。またほとんどが軽犯罪なので、逮捕されても注意を受ける程度か、せいぜい罰金を科せられるくらい。
何度も罪を犯したり、超高額なものを万引きしたとしても、ほぼ執行猶予ですむ。刑務所に入ることはごくまれなのだ。
「犯罪後に生活が変わることはなく、失うものもないので反省もしない。だから再犯率も高く、常習化していく人が多いと思われます」
背後に潜む“孤独”問題
万引きをする高齢者は、やはり経済的不安をかかえている人なのだろうか。
「実は、経済的に貧しいという人はあまりいません。普通の生活を送れている人がほとんど。万引きをするのは、節約のためという人が多い」
昭和生まれの高齢者は節約志向が高く、万引きする商品も、食品や日用品が主。宝飾品やブランド品はまずないという。
「そして主たる原因として考えられるのが、“社会的孤立”です」
万引きに関する有識者研究会の報告書によれば、65歳以上の万引き犯のうち、「独居」が56.4%、「交友関係を持つ人がいない」と答えた人は46.5%を占め、日常生活の中で孤独を抱えている人が多数いることが判明した。
同報告書では、日常生活の中で孤独や不安、ストレスの増加などが引き金になって、万引きのような問題行動につながるのではないかと指摘している。
「万引きが唯一のコミュニケーション手段になっている可能性が高いですね。“見張られている”という状況は、社会とのつながりを感じられるし、つかまって店長や警察官に叱られれば、それ自体がコミュニケーションとなる。
怒られても罰にならず、むしろ楽しみや高揚感を感じている人が少なくありません」
「孤独で話し相手がいない状態が続くと、気持ちの切り替えがしにくくなるので、嫌なことがあると、常にそのことが頭を巡ってしまいがち。時間をかけて怒りが増幅していって、ずっとイライラしているという状態になります。
そんなときに、道で足を踏まれたりすれば、怒りが限界点に達して、殴る、暴言を吐くといった問題行動につながるのです」