生前贈与の節税効果
ただ、贈与税そのものがなくなるわけではない。
「生前贈与を受けたときにまず贈与税を払っておき、くれた人が亡くなったときに相続税を計算しなおすのです。それで差し引きして、すでに払った贈与税のほうが多かったらその分は戻ってくるし、少なかったら追加で納税するという形になるでしょうね」
いずれ使えなくなりそうな相続税対策、どのくらいの効果があるのだろうか。
「例えば遺産が10億円で妻と子が2人いる男性がいたとします。こうしたケースは、早くから生前贈与を毎年続けておく(=『連年贈与』する)と結構な節税効果を得られるんです。このケースで、まったく生前贈与しなかったら相続税額は1億7810万円かかります。一方、子2人に、贈与税は多少かかりますが700万円ずつ15年間、生前贈与したとしたら、試算では差し引き2275万円の節税になるのです。しかし、贈与税と相続税の一体化が実現すれば、この2000万円以上もの節税ができなくなります」
改正されると“どうせ相続税がかかるなら、さっさと財産を渡してしまおう”と考える人が増え、「高齢世代から現役世代へスムーズに財産が渡るよう促す国の目論見もあります」と西原さん。その結果、経済にも好影響が及ぶという狙いがあるようだ。
富裕層だけじゃない税制改正の影響とは
一体化が予想される贈与税と相続税。どのような段取りで行われるのだろうか。
「現在、生前贈与をしていた方が亡くなった場合、亡くなる3年前までの生前贈与財産が相続財産とみなされ、相続税の対象となります。ちなみに外国はどうかというと、アメリカは無期限にさかのぼって課税されますし、フランスは15年、ドイツが10年です。日本もこうした国々にならうと考えられます。
もちろん、いきなりすべての生前贈与を相続税の対象にしてしまうと影響が大きすぎますから、今後、亡くなる前の5年前、10年前、15年前と徐々に対象が拡大されていく可能性が大です」
ただし、すでに非課税となっている贈与財産までさかのぼって相続税の対象となる心配はない。
「今まで相続税対策でこつこつ生前贈与を行ってきた人は、ルールが改正されるギリギリまで粘って、粛々と贈与をしていけばいいでしょう」