結婚生活を続けるための「誓約書」

 こうして筆者は誓約書の存在、書き方、そして切り出し方を紹介しました。美樹さんは帰宅すると、そのことを踏まえた上で、夫に対してこう切り出したそうです。

「今でも約束を守るつもりがあるんだったら、誠意を見せてよ。あなたは約束を破った前科があるでしょ? 今度は誓約書という形で残してよ」と言い、用意しておいた誓約書を突きつけたのです。

 夫は「なんだこれは!」という感じで誓約書を手に取り、目を皿にして読みました。「ふざけるな。もし守れなかったら大変なことになるだろ?」と抵抗。誓約書は美樹さんが考えに考え抜いた「絶対に同じ過ちを繰り返さない方法」なのに……ずいぶんひどい言われようです。しかし、美樹さんは「それはそうよ。だから絶対に破れないでしょ?」と言い返したのです。本当に約束を守る気があるのなら、誓約書にどんな内容が盛り込まれていても構わないはずです。

 しかし、夫はさらに反論。「守るって言っているだろ? 夫婦なのに証拠に残すってあんまりだろ? そんなに信用されていないのか!?」と。そこで美樹さんは「誓約書を書いてくれないと信用できないわ。それは約束を守らないあなたのせいでしょ? それから離婚届にも一筆、書いてね。(役所へ)出さずに私が預かっておくから」と言い返したのです。

 誓約書のうち、ペナルティについては離婚届を提出した場合のみ効力が発生します。逆にいえば離婚届を提出しない限り、効力は発生せず、保留中のままです。夫が再度、約束を破った場合は離婚届を提出するという意味です。夫が心から反省し、心を入れ替え、約束を守り続ければ、誓約書のペナルティは無効なままです。

「もし、誓約書の手続きに協力しないのなら、あなたは約束を守るつもりがないと決め付けるしかないわ。それがどういうことかを察してね」と美樹さんは暗に離婚を匂わせて説得しにかかったのです。なぜなら、離婚に消極的というのが夫の弱みだからです。

 しかし、夫は「いろいろ御託を並べているけど、お前、本当は離婚したいんじゃないか? 慰謝料、財産没収、それに親権って……普通じゃないだろ!」と逆ギレ。美樹さんは咳払いの後、こう諭したのです。「誤解しないで! 私はこれからも結婚生活を続けたいと思っているわ。そのための『誓約書』でしょ?」と。

 夫が誓約書に署名すれば、二度と約束を破らないのだと信じてもいいと言っているのです。そして「誓約書を守っている限り、二度と離婚の話を切り出したりしないので安心して」と言い添えたのです。夫はこれが最後のチャンスだと悟ったのか、渋々ながら誓約書に住所、名前を自筆し、実印を押印したそう。ついに美樹さんは署名捺印入りの誓約書を手に入れることに成功したのです。

 残念ながら、人間の本質はそう簡単には変わりません。約束を破ったら離婚させられるというシチュエーションでもです。そのため、ほとぼりが冷めると、また元の姿に戻り、夫婦の決め事をすっかり忘れ、うっかり約束を破ってしまうことが多いです。

 昨年、2020年の離婚件数(厚生労働省の人口動態統計)は19.3万組。一方、2019年は20.8万組。コロナの影響があったためか微減しました。トラブルメーカーにトラブルを起こさせないこと……それがいかに大変か、筆者は身に染みています。美樹さん夫婦が危機を乗り越えることできるでしょうか。来年、再来年の件数にカウントされないことを切に祈ります。

 この連載は今回で最終回です。2年4か月の間、お読みいただき、ありがとうございました。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/