婚活で2人の関係を上手に育てていこうとしたとき、一番大事なのは、コミュニケーションの取り方。自分がよかれと思ってしている発言が、相手に不愉快な印象を与えたり、受け入れられていないことがあります。ライターをしながら仲人として、婚活現場に関わる筆者が目の当たりにした婚活事情を、さまざまなテーマ別に考えていく連載。今回は、悪気なくしている会話が、相手にどんな印象を与えているのか、事例とともに見ていきましょう。

初対面でいきなりの友達口調の女性に男性はア然

 先日、会員のお見合いの立ち合いに行きました。お見合い場所となったホテルのティーラウンジはとても混雑をしていて、順番待ちをしている列ができていました。私の会員女性、ちえさん(32歳、仮名)は、待ち合わせ場所に指定されたフロントでお相手を待つことにし、私が列に並んでお席を確保しようと、二手に別れました。

 私の前に並んでいるカップルも、どうやら今日はお見合いのようでした。そして、2人からこんな会話が聞こえてきたのです。

「湯橋さん(仮名)、下の名前は何ていうの?」
「えっ? そういちですけど」
「そっか。じゃあ、そうちゃんでいいね。私は、あきもとめぐみ、めぐでいいよ」

 女性は、まるで学生時代の合コンのようなノリでした。いきなりの友達口調です。さらに女性が、こんなことを男性に聞いてきたのです。

「そうちゃんって、お見合い何回目? 私はもう20回とかやったかな。でも全然うまくいかなくて。まあ、うまくいかないから、今ここにいるんだけどね。あはは」

 すると、男性がムッとした口調で言いました。

「お見合いでは、フルネームは、明かさない。相手の婚活歴がどのくらいあるは聞かない。それがルールですよね。僕は今、下の名前を聞かれて言ってしまったけれど、婚活歴は、あなたには伝えたくないです」

 男性の口調から、気分を害しているのが受け取れたのでしょう。女性も不満そうな口調で言いました。

「えっ、別にいいじゃない。じゃあ、もう今日はお見合い、これで終了にします? コーヒー代とか、もったいないし」

 男性は、黙ったままでしたが、女性は、列から離れて帰ってしまったので、男性も列に並ぶのをやめて、女性とは反対方向に歩き出しました。

 これは明らかに女性のルール違反です。フルネームを明かすのは、お互いが交際希望を出して、交際になってからです。そこではじめてフルネームと連絡先を、相談室を通じて交換するのです。SNSが発達している現代、フルネームで検索をかけると出てきてしまう情報もありますし、個人情報を保護する観点から設けられているルールです。

 また学生時代は、サークルや合コンで、“ですます調”の丁寧語で話すのは、固い人、人付き合いが下手な人として捉えられたと思います。しかし、社会に出てからは、初対面の人には礼儀をわきまえ、丁寧語で話すというのが基本です。それが常識ある大人がする会話です。

 この2人は、初対面で会ったときに、距離を縮める速度が、あまりにも違いすぎました。友達口調で話す女性に対して、男性がそれに違和感なく会話を合わせられたらよかったのかもしれません。しかし、男性は彼女の言葉遣いや質問の内容を“礼儀をわきまえない不躾な人”と感じたのでしょう。結局そのカップルは、その日お見合いもせずに帰ってしまいました。

 その2人がいなくなったときに、私の会員のちえさんが、その日お見合いをするまさよしさん(35歳、仮名)とこちらに歩いてきたので、私と入れ替わりに列に並んでもらいました。ちえさんとまさよしさんは、お見合い後に交際になったので、こちらの2人は会話の波長が合ったようです。