刑事の提案により、琴美さんは念のため父親のクレジットカードを預かることになった。
刑事の来訪から一週間後。
母親からの連絡で、琴美さんは再度、青ざめた。散歩から帰宅した父の財布をのぞいた母親が、数時間前に渡したお小遣いの代わりに、電子マネーの領収書を見つけたという。さらに、父親がカードローンに数十万円の融資の申請をしていたことも発覚。
琴美さんはその日、実家近くの最寄りのコンビニをめぐり「白髪で眼鏡の高齢男性が電子マネーを購入しようとしたら、警察に連絡をして欲しい」と伝えた。
詐欺師は言葉巧みに、カードローンの申請を促し続けているのではないか。
そう警戒してのことだ。
詐欺集団が目をつけるポイント
その翌日には「あと30分以内に4万円を振り込んだら、半日以内に68億円が振り込まれる。今日入金がなかったら諦めるから、預けたクレジットカードを返してくれ」と突然、父親が琴美さんの自宅にやってきた。
再び警察に相談、駆け付けた刑事に「自分はまだK崎を80%は信じている。でもヨーロッパ宝くじの件は、100%信じている」と謎の言葉を発したのだ。
「宝くじ?」
新たな疑問を抱いた琴美さん。調べると「宝くじに当選」したことを信じて手数料を払いこもうとしていたうえ、ウイルス感染詐欺にもあっていた。
「パパ、パソコンがウイルスに感染したという警告が出たからと、サポートセンターに電話していたわ。指示に従いながらパソコンで半日ほど作業したあと、月に3万円ずつWebマネーで払えばもうウイルスに感染しないと言われたみたい」と母親。
わずか2か月間で“ウイルス感染詐欺”“宝くじ当選詐欺”“支援金詐欺”と、3つの異なる詐欺に引っかかっていたのだ。
今、琴美さんは刑事から、父親に認知症の検査を受けさせるように勧められている。
複数の詐欺に気づかない点が、認知機能の低下によるものかもしれず、もし認知症だと病院で診断が下れば、「成年後見人制度」の申し立てをしたほうが安全との助言を受けた。
成年後見人制度の活用で、父親の財産を管理できるようになり、カードローンや消費者金融の審査は、本人による申し込みでは通らなくなる。
琴美さんは溜息をつく。
「国立大学を出てシステム系一部上場企業に長年勤め、海外にも暮らし、定年後は自身の会社を起こした聡明な父親が、まさかインターネット詐欺犯罪に巻き込まれるなんて……」