タクシードライバーは、どんな客を乗せるか分からない“リスク”と隣り合わせで、クレームに敏感な職業でもある。ドライブレコーダーが普及した現在では、ドライバーに対する暴行事件の発覚が後をたたない。「道を間違えたから」「スピードが遅い」など、些細なことで顧客とのトラブルに発展することもある。その一方で、ドライバーに対する顧客のクレームの声もよく耳にする。
求められる「丁寧な接客」
ベテランドライバーの天野さんは(仮名・60代)はこう話す。
「一番多いのは料金を値上げするために停車場所を伸ばした、道を間違えただろう、というもの。次いで話し方などの接客面です。接客時は普通にしているように感じても、気がついたら会社にクレームがいっていた、ということがここ最近は特に頻発していますね」
接客態度や運転マナー、運賃などで顧客からやり玉に挙げられるということは、いわばこの仕事の宿命でもあり、避けられない問題でもある。そんなドライバーたちに寄せられる顧客の指摘や不満は、どういったものが占めるのだろうか。
その答えを読み解く上で、興味深いデータがある。一般社団法人東京ハイヤー・タクシー協会が19年に実施した「タクシーに関するアンケート調査結果」によれば、一か月辺りの利用頻度、いち乗車辺りの利用額などの項目で男女差はほとんど見られない。
あくまで母数が限定された調査ではあるが、これはつまり東京などの大都市圏においては、利用金額、利用頻度などで女性のマーケットは男性とさして変わらないことも意味する一つの指標ともとれる。
更にデータを読み込むと乗客が重視する項目に、安全性に次いで2位に位置するのが「丁寧な接客」という項目で、これが全体の約20%を占める。面白いことにこの数字は年齢と共に上昇していき、20歳未満と60歳以上では倍近い数値の開きがあるのだ。総じていえば、女性のほうが求める水準が高く、年齢が高まるほどその傾向が一層強まる。
具体的に求めることについてみていくと、かなり厳しい意見が占めることがわかる。
「タクシーを利用するときに“この運転手は大丈夫かな”と思いながら手を挙げていますが、いつになったらこうした状況が無くなるのでしょうか。お金を払ってサービスを受けるのに、運転手によっては嫌な思いを抱きながら、早く目的地に到着することを願っているのが現状ですが、まともなサービスが提供出来ない運転手が一日も早く居なくなることを願っています」(50代女性)
「運転手さんの人となりによって、乗らなければ良かったと思う時もあります。話をしすぎる方もぶっきらぼうな方も乗っていて、とてもつらいです。運転手さんの質の向上をお願いしたいです」(50代女性)
「ときに“むっつり”した運転手さんの車に出会うこともあります。そのときは一寸困りますが、人間ですからね、そういうときもあるでしょう。でも“ありがとう、助かりました!”と言って降ります」(60代女性)
その一方で、こんな声もある。
「最近は運転手さんの対応もとても感じがよく、朝などは気分よく一日をスタートできます。地方などではまだまだ無愛想な運転手さんがいるので、東京のレベルの高さを感じます」(50代女性)
これらの意見は、どちらもタクシー業界の現状をそのまま表しているような気がするのだ。