「羽生結弦のアクセルのベストがあれかなっていう感じもしてます」
2月10日、北京五輪での戦いを終えた羽生結弦が、少し寂しげな表情でインタビューに応じた。2014年のソチ五輪、2018年の平昌五輪を連覇してきた羽生だが、今回は惜しくもメダルに手が届かなかった。
「2月8日に行われたショートプログラムでは、予期せぬアクシデントに見舞われました。演技1つめのジャンプで、4回転サルコウを予定していましたが、1回転になってしまったのです。ほかの選手が滑った際に氷上にできた穴にハマってしまったことが原因。自身では“氷に嫌われた”と振り返っていました」(スポーツ紙記者)
このミスが響き、ショートを終えて8位での発進に。フィギュアスケート評論家の佐野稔さんが振り返る。
「“穴ぼこ事件”がすべてになってしまいましたね。それ以外の部分は完璧でした。2014年には、グランプリシリーズ『中国杯』の練習中にほかの選手と衝突し、頭から流血する事故もありましたが、そういった悲劇と、五輪2連覇という頂点とどちらも経験するのが羽生結弦という人間なのでしょう」
そして、2月10日。世界中が注目するフリースケーティングで、4回転アクセルに挑んだ。
「当日朝の公式練習では跳ばず、演技直前の6分間練習では、2回挑戦するも、どちらも転倒。そして、いよいよ本番。『天と地と』の演技冒頭で4回転半を組み込んできました。転倒による減点があり、回転不足の判定にこそなってしまいましたが、国際スケート連盟の公認大会では初めて“4回転アクセル”として認定されました」(前出・スポーツ紙記者)
「アクセルは王様のジャンプ」
4回転アクセルを成功させると心に誓ったのは、小学2年生から羽生を指導していた、都築章一郎コーチのひと言がきっかけだった。
「都築コーチが羽生選手に“アクセルは王様のジャンプだ”と教えたのです。そして、平昌五輪2連覇の翌日、4回転アクセルへの挑戦を初めて公言しました」(同・スポーツ紙記者)
都築コーチは、北京五輪での羽生の姿に大きな感銘を受けたという。
「小さいときに彼に言ったことをずっと目標に掲げて、オリンピックという大舞台で挑戦してくれたことに、本当に感謝しています。4回転半は、彼のスケート人生の集大成でしょう」
その都築コーチに羽生を託したのが、4歳だった羽生をスケートに導いた山田真実コーチだ。
「転んでも4回転アクセルに挑んだことに、心を打たれました。結弦は類いまれなるフィギュアの才能があるので、それもあってここまできましたが、今回の挑戦で“真のアスリート”になったように見えました」(山田コーチ)