明らかになったDV被害
被告によると、曾我さんは、酒を飲むと豹変することがあった。
仕事柄、飲酒をしないというわけにもいかず、平被告は店のマネージャーらに飲ませすぎないようにと注意していた。仕事モードのときの曾我さんは、ところ構わず暴れることはなかったが、仕事から解放されて平被告がそばにいるときに限って、豹変したのだという。
しかも何が気に入らないのか、何で怒っているのか、スイッチがいつ入るのかもわからないため、平被告は酔っている曾我さんと接する際は言葉にも気を付けていた。
しかし、いったんスイッチが入ると、走行中の車内から平被告の私物を投げ捨てる、車から飛び降りようとする、ハンドルにつかみかかるなど命の危険すらいとわない行為に及んだ。実際に危険を感じた通行人に110番されたこともあった。
また、自宅の壁という壁は曾我さんが暴れた際にできた穴が無数にあり、気に入らないことがあるとベランダから大声で叫ぶ、飛び降りるそぶりをする、挙句には室内に放火をするなど、その行為は常軌を逸していた。
3度目の通報で駆けつけた警察官から、平被告がDV被害者に当たるとの指摘を受けたこともあった。
平被告はとにかく抑えつけなければ何が起こるかわからないという「恐怖」を感じ、曾我さんが暴れるたびに抑えつけては、暴れ疲れて眠ってくれるのをひたすら待っていたという。
あの夜、曾我さんは被告にスマホを見せてきた。出勤前の和服姿を見せたかったようで、「これ見て」といってスマホを平被告に渡した。しかしそのカメラロールの中に、元カレの写真があるのを被告が見つけてしまう。日付は、ふたりが同居し始めたよりもあとのものだった。
説明を求める平被告に対し、表情を一変させた曾我さんはスマホを返せとわめくと、包丁を握った。そして、平被告の左胸下部にぐいっと突き付けたという。それまでにも刃物を持ち出されたことはあったというが、突き付けられたのはこの夜が初めてだった。平被告はこのとき、「実際に刺されたと思った」と証言した。
「ケータイ(スマホ)返せ! ぶっ殺すぞ!」
平被告がスマホを返すと、いったんは落ち着いたように見えた曾我さんだったが、ブツブツと何か言いながら室内をウロウロと歩き回り始めた。
「テーブルの上にハサミがあって……。これまでも興奮するとハサミやボールペンを振りかざすことがあった」
思いついたように曾我さんがテーブルへと走ったのを見た平被告は、慌てて彼女を捕まえるとそのまま寝室のベッドへと引きずりこむ。ベッドに引きずったのは、フローリングだと倒れ込んだ際に二人ともがケガをするかもしれないと思ったからだという。
布団に抑えつけられてもなお、「ぶっ殺す!」とわめく曾我さんの両足を挟み込み、両手も手首をつかんで抑えつけた。
5~10分経過しただろうか、おとなしくなったのを確認して、平被告はいったんその場を離れた。口の中が切れていた。
「なんでこんなケンカせないかんの」
そう言いながらベッドルームへ戻ると、曾我さんは起き上がり、すぐにまた興奮し始め、今度は窓に手を伸ばした。平被告は以前曾我さんが飛び降りようとしたことを思い出し、再び彼女を抑え込んだのだった。
しかし、しばらくして彼女の異変に気付く。平被告は119番して救急隊からの指示のもと救命措置を施したが、曾我さんが息を吹き返すことはなかったという。