では、なぜそんなに「整然と」や「厳粛さ」が求められてきたのかというと、「そのほうが、保護者などから『よかった』と言われるから」とのこと。
「なんでそんなに全員そろって同じようにしないといけないのか? と思っていましたが、管理職(校長・教頭先生)や教務は『そういうところをきちっとやっていると、来賓や保護者からよかったと言われる』って言うんですよね」(前出のY先生)
「親の期待もあったりしますよね。いいものを見せてもらえると、やはり感動もするし、それが結果として子どもの成功体験にもなる、と考えられてきました」(公立小学校教員・N先生 神奈川県 50代)
一方で、「よかった」などの感想を言ってくるのは、保護者以外が多いのでは、という指摘もありました。
「(ほかの年と比べて)今年はどうだった、と言ってくるのは保護者よりも、毎年卒業式に出ている地域の方(来賓)や、中にいる先生たちかもしれません。保護者は、きょうだいがいる人しか卒業式に何度も出ないので、そんなに言ってこないんじゃないですか」(公立小学校教員・O先生 千葉県 40 代)
「卒業式はほかの学校行事に比べると、そんなに親からいろいろ言われることはない気がします。卒対の保護者とのやり取りはけっこうありますが」(公立小学校教員・S先生 千葉県 50代)
たしかに、卒業式のあと子どもは卒業してしまうので(当然ですが!)、下にきょうだいがいる保護者しか、先生に感想を伝える機会はなさそうです。もしかすると、先生たち自身のなかにも「こういう卒業式がよい」という固定観念があって、「整然と」や「厳粛さ」が続いてきた面も、意外と大きいのかもしれません。
簡素化されて「よかった」こと
そんななか、簡素化された卒業式を経験してみて、「これでいい」と感じる先生は増えているようです。
「コロナの影響から、去年(2021年)の卒業式は練習なしで、当日30分説明をしただけ。でも、問題なくできちゃったので、『あ、できるじゃん』と職員室でも話題になりました(笑)」(前出のU先生)
「以前は『卒業式は、こういう流れでやるもの』というふうに我々(教員)自身も思っていたので、あまり変えずにきたところ、コロナでガラッと変わって、『それでいいんだね』と分かった。だから、練習にかける時間は減っていますね。減らすことに、抵抗がなくなったと思います」(前出のS先生)
「児童数が多い学校は、以前から『呼びかけ』を全員にやらせていなくて、『このほうがラクだな』と感じたことはありました。全員にやらせる学校では、声を出すのが苦手な子にも、無理に練習させたりしていたので」(同S先生)
「コロナの前の話ですが、一度、卒業式で礼法をやらなかった年があったんです。右手が先だとか、左を見てお辞儀だとかをやることに意味があるのか考えて、必要最低限に省いたことがあって。そのときの卒業式が、一番感動的でした。これはどっちでも変わらないだろう、ということを省いた結果、得たものは変わらなかった。それなら、大事な授業の時数を潰してまで練習することではないなと」(前出のO先生)
これまでどおりの卒業式をやめてみたときに初めて、自分たちが縛られてきたことに気付き、そもそもの卒業式の意義が浮かび上がってくる。そんな面もあるのでしょうか。
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取材の中では、「卒業式の裏で、先生たちはそんな苦労もしていたのか!」と驚かされる話も、いろいろとありました。
例えば、音楽の先生は合唱の指導のため、卒業式の練習期間中、体育館に詰めっぱなしになっていること。卒業生だけでなく、在校生の練習もあるので、けっこうな長時間です。そのため、他学年の音楽の授業を1・2学期に振り替えるなどの調整も必要になっているとか。
子どもたちがリコーダーを吹くとき、特別支援学級の子が全然違う音を出して笑われたり、へんな目で見られたりしないよう、事前にセロテープでリコーダーの穴の一部をふさいでおくんだ、ということを聞いたときはなかなかビックリしましたが、単純ではない話であることも感じました。問題は、笑う側やへんな目で見る側にあるのですが、先生たちがそんなふうに気を配っている状況があるのか、と。
小学校の卒業式で着てくるものについての指導が難しい、という声もありました。「式典にふさわしい格好」といっても、それを用意できない家庭もあるからです。「一年中、半袖短パン」を着てくる5年生の子に、卒業式の日もそれでOKとするかどうか悩んだ、という話もあって、笑ってしまいましたが、これも後からジワジワと考えさせられました。
保護者も来賓も先生たちも「大人たちみんな」が、漠然とした「卒業式らしさ」や「ふつう」を過剰に追い求めるために、子どもたちにも、先生や保護者たちにも、余分な負担を強いてきた面があるのかもしれません。
大塚玲子(おおつか・れいこ)
「いろんな家族の形」や「PTA」などの保護者組織を多く取材・執筆。ノンフィクションライターとして活動し、講演、TV・ラジオ等メディア出演も。著書は『さよなら、理不尽PTA! ~強制をやめる!PTA改革の手引き』(辰巳出版)、『ルポ 定形外家族 わたしの家は「ふつう」じゃない』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(太郎次郎社エディタス)など多数。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。
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