事実に基づく対話が叶わないことを鑑(かんが)みて、弁護士と共に告訴状を作成。警察に向かったが、Sさんを待ち受けていたのは非情な対応だった。

「聞き取り調査に応じたんですが“身体に傷がない”“犯行現場の正確な情報がない”といった理由から、証拠不十分であるとして告訴状は受理されず、捜査してもらうことすら叶いませんでした。以降、告訴状は取り下げていないものの、ずっと泣き寝入りの状態で……。そんな中、今回の報道があって。同じ被害にあった方々の勇気ある告白を目にして、私も真実を明かすことにしました」

 Sさんは、心配そうに見守る夫の隣でときおり涙を浮かべながら、辛い胸の内を明かした。彼女は当時の記憶が原因で精神科から“外傷後ストレス障害”と診断され、現在も苦しみ続けている。

被害者はほかにもたくさんいる

 Sさんの言葉が事実なら、木下の行いはれっきとした犯罪にあたる。通知書でのやり取りについて、木下が当時所属していた事務所に問い合わせると、代表を務める男性が取材に応じた。

「通知書が弊社に届いたのは事実です。木下からは、通知書が届く前から相談を受けておりました。“顔見知りの女性で何度か食事をすることがあり、食事の後にそういった行為に至りましたが、《薬物を使用した》《無理矢理に行為に至った》という事実はありません”とのことでした。

 私としましては、彼の言葉を最大限信じて、弁護士を紹介したという流れです。この取材を受ける前に木下本人に連絡をしたところ“ご迷惑をおかけします”との返答はありました」

 木下の現状については、言葉を詰まらせながらこう語る。

「本当に、悲しいです。いろんな人から“大丈夫ですか?”と聞かれますが、7年か8年は一緒に苦労してきましたので……複雑でございます。すみません、こんなことくらいしか、私からはお答えできないのですが……」(木下が所属していた事務所の代表)

 かつての恩師も胸を痛める、木下の性加害トラブルを巡った報道。Sさんの言葉について、木下本人はどう考えているのか。4月上旬、木下に電話で事実確認の取材を申し込んだところ、代理人を通じて書面での回答があった。

Sさんが弁護士とともに作成した告訴状。木下ほうかの罪名には“強姦”の文字があるが、証拠不十分で受理されず警察も動かなかった
Sさんが弁護士とともに作成した告訴状。木下ほうかの罪名には“強姦”の文字があるが、証拠不十分で受理されず警察も動かなかった
【証拠写真】木下ほうか「めっちゃ嫌われたの?」被害女性に送った的外れなLINEほか

 返答としては、あくまで木下の認識では、Sさんの主張が事実と反するという考えに変わりはない。しかしながら、彼女が当時の記憶により現在も苦しみ続けていることに関しては、

《結果として被害女性を傷つけてしまったことに対しましては深く反省しております》

 との回答だった。

「結局、強姦の事実を認めず、すべて私のせいにして逃げ切った。当時と何も変わらないと思います。でも当時と違うのは、この事実が記事として掲載していただけること。泣き寝入りの日々だったので、本当にありがたく思います」(Sさん、以下同)

 木下が発表した謝罪文については、こう語る。

「ほかの被害者の方々に対しても、中途半端な謝罪だけして、芯の部分は認めていない。本当に不誠実な対応だと思いました。同意の上だったことにし、うまく逃げようとしていて不快極まりないです。メディアでは、もう二度と顔も名前も見たくない。怖くてテレビも観られなくなったし、この7年間フラッシュバックでどれほど苦しんでいたか……。“魂の殺人”という言葉通りで、今もまだその苦しみは続いています

 被害当時、Sさんはこんな話も聞いていた。

「きっとまだ、名乗り出ていない被害者の方はたくさんいるはず。当時、ほかにも被害者がいないか調べてくれと弁護士から言われた際、関係者に聞いて回ったところ“いますぐ結託するのは難しいが、被害者はほかにもたくさんいる”という情報を耳にしました。いったい、何人の魂を殺してきたのか……。

 罪の意識がまるで感じられませんが、これは犯罪です。繰り返される前に、警察に捕まってほしい。私が被害にあった当時の衣類は、すべて警察に提出してあります。時間は、止まったままです」(Sさん)

 被害者による告発が相次ぐ性加害トラブル。事実として、何年経とうと癒えない心の傷に現在も悩む人がいる。またSさんのように、当事者だけでなく、その周りにいる人たちまでもが苦しめられているケースも多い。“認識の違い”では済まされない行為は、加害者がその“認識”を改めない限りなくならないだろう。