たとえば初場所から始まった、人気親方たちによるトークイベント。平日の午前中、事前に応募した中から30人程度が抽選で参加できる(入場料は別途1000円)。今場所は初日から毎日、元・琴奨菊、白鵬、鶴竜、安美錦、豊ノ島ら、現役を引退した人気の親方たちが45分~1時間程度のトークを行う。
白鵬が語る、自身の優勝回数45回を超える力士
筆者はラッキーにも2日目の間垣親方(元・横綱白鵬)の日に参加することができたが、国技館内に併設された相撲博物館内に椅子を並べ、目前に親方が! いちばん前の列の席が当たった人たちは女性も男性も「どうしよう?どうしよう?」と胸に手を当てて大騒ぎ。土俵を見つめるのと同じ、もしやそれ以上の大興奮だ。
この日の司会は、コロナ禍でやはり人気が上がった親方たちのYouTubeチャンネル『親方ちゃんねる(親ちゃん)』を仕切るひとりである、音羽山親方(元・天鎧鵬)。
「マスコミが今日は12社も来ています。カメラの前で話すのは苦手なので緊張します」と音羽山親方が言えば、間垣親方が「マスコミ、1回(外に)出そうか?」などと笑って言って観客もドッと笑ってスタート。
音羽山親方が「引退してから健康管理とかどうしていますか?」と尋ねると、
「ダメですねぇ。食事とお酒がおいしくてね、今は。ただ、引退してからはよく眠れています」と笑顔で答える。
そうか、横綱として過ごした14年間、白鵬はよく眠ることが難しく、心からお酒や食事を楽しむにも努力を要する日々を過ごしていたんだなぁと、その過酷な横綱という地位を思った。
今は時間があるときは「家のソファに座ってネットフリックス見るのが楽しみ」なんて言っていたが、一体何を見ているのだろうか。
そして「これから先に(白鵬の優勝記録である)45回、優勝する人は出てくると思いますか?」と聞かれ、
「出てきますよ。大鵬さんに生前、『記録は破られるためにあるんだよ』と言われました。きっとそういう(45回の優勝記録を抜く)男が何年か後に現れます。私はその男と酒を酌み交わしたい」と言った。
45回優勝。1年6場所ぜんぶ優勝しても7年以上かかる。果たしてそんな力士が出てくるのであろうか? とてつもない記録すぎて、白鵬がいかにとてつもない力士だったかを改めて思う。なのに現役中に受けた多大な誹謗中傷、それとは逆に引退してからテレビ中継の解説席に座る白鵬(間垣親方)の的を得た相撲愛にあふれた解説に、「白鵬すごい」の賞賛の声があがるのだから、大衆の心とはなんと身勝手だろうか。
しかし、この力士の癖はこうで、ここが強いところで、ここが弱点でと、今まで誰も指摘できなかった「なるほど」と頷かされる丁寧な解説に、この人が強かったのは当然だと今になって誰もが思わずにおられないでいる。強い人には強い人の理由がちゃんとある。対戦相手をここまで分析できる目、改めて驚嘆して、その偉大さを思い知るのだ。