母親に売春を強要された女性
これまで「止まり木」で受け入れたのは、10年あまりで97人。育った環境が悪く、親とも縁を切っている人がほとんどで、圧倒的に男性が多い。中でも大塩さんが忘れられないのは20代の女性だ。
保護観察所で初めて会ったとき、女性はとてつもなく暗い目をしていた。肌の色も黒ずんでおり、背中一面にブツブツがある。大塩さんは背中に薬を塗りながら、身の上話を聞いた。
女性は大阪の売春街で父親もわからないまま育った。中学生のとき、母親の内縁の夫に柱にくくりつけられて覚醒剤を打たれ暴行される。母親には「私の男を盗った」と責められ、「弁償するために、そこの四つ辻に立っておけ」と売春を強要された。
キャバクラで働き始めると彼氏ができたが、「金を出せ」とせびり続けるようなヒモ男ばかり……。
「こんな私でも、必要としてくれてるから」
そう吐露する女性の言葉に、大塩さんは涙が止まらなかったそうだ。
「これがこの子の現実かと思ったら、切なくて、かわいそうでね。何とかせなと、夜も眠れんほど考えたんです」
女性は覚醒剤で逮捕されて服役。仮釈放され薬物依存回復施設にいたが、合わなくて逃げてきた。
「満期終了までの1か月だけ『止まり木』で預かってくれたらいい。どうせすぐ大阪に流れていくから」
担当した保護観察官の対応は事務的で冷たかった。服役前に精神科に通院したり薬を飲んでいても、情報が共有されないこともある。この女性も、精神科の薬を飲んでいるのにお薬手帳もないと言われ、頭にきた大塩さんは観察官に大声で怒鳴った。
「明日の朝までに服薬記録を取り寄せて!」
女性が「止まり木」を出た後もひとり暮らしは嫌だと訴えたため、大塩さんは信頼できる救護施設に「過酷な人生を生きてきたから施設の調和を乱すかもわからんけど」とすべてオープンにして、必死に頼み込んだ。
「この間、会いに行ってきたのよ。見違えるほど元気になって、自腹で美味しいプリンを買って待っていてくれて。もう、涙が出るほどうれしかったです」