(2)テレビから、怒り役がいなくなっている
番組内で問題発言があったとき、視聴者の声を代弁するようなツッコミがなされると、印象はだいぶ違ってくると思います。松田の歩きタバコの件で言えば、「先に友達を注意すべきだったんじゃないの?」「やられたらやり返すアンタもどうかと思うわよ」というようなツッコミがあれば、一応のオチがついてそれほど燃えなかったのではないでしょうか。
しかし、今、テレビの世界から“怒り役”が消えつつあります。『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日系)でマツコ・デラックスは「若い人に何か言うのは、極力避けている」とし、有吉弘行も同意して「俺、ディレクターがその辺で小便しても何も言わないよ」と冗談をまじえて同意していました。
毒舌で鳴らした二人ですが、なぜ怒り役から降りたのかといえば、それがパワハラと言われ、イメージが低下する可能性に気づいているからではないでしょうか。
毒舌キャラは「人に厳しいが、自分にも厳しい。しかし、礼儀は重んじるし、的確なことを言っているので本当の優しさがある」という絶妙なバランスで成り立っていると思います。しかし現代では、自分の表面的な評価だけ気にする人が多くなり、怒り役に対して「あの人は私を悪く言うから、嫌な人」「あの人は若者を叱るから、パワハラ」と、一面的な解釈をする人が増えていると感じます。マツコや有吉のように、人気商売の人にとってマイナスイメージは避けなければなりませんから、怒り役を買って出る人はいなくなるでしょう。
(3)炎上は「何を言うか」より「誰が言うか」
「ヤバいことを言うと、炎上する」と思われがちですが、同じ発言内容でも、その発言者が女性か男性か、またその人のキャラクターや社会的ポジションによって、受け止められ方はずいぶんと違うものなのです。
例えば、元NHKのフリーアナウンサー・有働由美子は2月11日放送のラジオ番組『うどうのらじお』(ニッポン放送)において、北京五輪スノーボード男子ハープパイプ決勝で、金メダルを獲得した平野歩夢選手に対し、「久しぶりに女心がキュンキュンとしましたね。残り少ないホルモンが出てきたみたいな気持ちになりました」「素晴らしい演技、素晴らしい滑り以上に、いち日本に住むオバチャンのホルモンっていうとやらしいですけど、気持ちまで若返りました」と発言しています。
自虐の女王、有働サンですから、話を面白くしようとして、サービス精神でホルモン発言をしたのでしょう。しかし、この発言を男性アナウンサーがしたら、どうなるでしょうか。20代の女性アスリートに対し、50代の男性アナウンサーが「久しぶりに男心がキュンキュンとしましたね。残り少ないホルモンが出てきたみたいな気持ちになりました」「素晴らしい演技、素晴らしい滑り以上に、いち日本に住むオジサンのホルモンっていうとやらしいですけど、気持ちまで若返りました」と言ったら、炎上必至ではないでしょうか。
私はこの発言がセクハラに感じられましたが、特に炎上はしませんでした。そこには国民的アナウンサーと言える有働サンの抜群の好感度、自虐キャラが好意的に解釈されていることと関係していると思います。