クラスメイトの前で担任から受けた「指導」の衝撃
「“悪いことをすると、こういう目にあうんだ”と思いました。クラスメイトも見ていたと思います。異様でした。怖いので、声が震えて、声にならないような感じでした」
衆人環視の中で、担任からされた性被害。洋太さんは何も言えず、口が乾くだけだった。
「(指導をすると)大きい声で言われたわけではないので、クラス全員に聞こえたわけではないと思います。しかし、前列の何人かには聞こえたと思います。あのときの記憶が頭をめぐっています。今から考えれば、そんなこと、拒否すればいい。しかし、当時の僕には到底無理な話でした」
しばらくすると、担任は「(席に)戻っていい」と言った。洋太さんは自分でズボンを上げて、席に戻り、授業が再開された。何事もなかったかのように時が過ぎた。
ほかの児童からは何か言われてもおかしくはない状況だが、何をされたのか、誰も洋太さんに尋ねることはなかった。
「ほんと、気持ち悪い出来事でした。それを理由にいじめられたりするなら、まだ理解はできます。しかし、僕のされた出来事に触れる子はいませんでした。見なかったことにしたのかもしれない。話題にしてはいけない雰囲気だったんです。誰もそのことを話さないし、噂にもなりませんでした」
話題にもならなかった理由のひとつは、体罰をする担任だったせいもある。授業と授業の合間の休み時間は、外に出て遊ばないといけないという指導がされていた。
あるとき、洋太さんは遊ぶためのボールを忘れて教室に戻り、担任と鉢合わせした。すると、担任から「なんでここにいるんだ」と言われ、殴られた経験がある。こうした体罰の一環として、性暴力があったとも言える。
洋太さんにとって、「指導」を受けた衝撃はその後も引きずった。他人に打ち明けることができたのは、大学4年生になってからだ。
「当初は衝撃的すぎて相談できませんでした。それでも中高生のときは、なんとか登校したんです。大学生になると、精神的なつらさから気持ちの整理が難しくなり、学業不振に陥ってしまった。研究室へ行けなくなりました」
そのため、大学の保健室に行くようになり、たまたま相談ができた。担当者は「よく自分に話をしてくれたね」と言って泣いてくれた。
被害体験から生じた不安はあったが、我慢することで自分を保っていた洋太さんは、「話すことで整理をつけることができました」と振り返る。
「性暴力によって自分の心が歪められたというよりは、ちゃんと処置をしてもらわなかったことへの怒りがありました。“男性でも性被害はある”と言い続けていかないと、すぐ忘れられます」