成年後見の方法は、大きく分けて2種類。1つは、本人に十分な判断力があるうちに、誰にどんなサポートをしてほしいか自分で指定できる「任意後見」。もう1つが、本人の判断力が失われたあとに、家裁が後見人を選ぶ「法定後見」だ。「法定後見」は、本人の判断力の程度に応じて「補助」「保佐」「後見」に分かれ、それぞれサポートの内容も変わってくる。
サポートをする後見人などとして家裁に選ばれるのは、本人の親族のほか、法律・福祉のプロや福祉関係の法人など。そのため、介護をスムーズにしたいと家族が後見人に立候補しても、選ばれるとは限らない。
プロの後見人が起こしたトラブル
「成年後見制度の創設に関わった法務省の担当者に聞くと、もともとこの制度は、家族が無償で後見人になって、本人の代わりにお金をおろして施設に払う……そうした状況を想定してできたものだといいます。実際、創設時は後見人に選ばれた人のうち9割は親族でした。ところが、制度ができて20年たった現在、後見人のうち親族の割合は2割と大幅に減っています」
理由の1つとして、親族の後見人が財産を勝手に使うなど不正を働く事例が多発したため、家裁が慎重になっていることが挙げられている。
「この“不正”といわれているもののなかには、後見人になった同居家族が“介護のために、おばあちゃんのお金を使って自宅の風呂をリフォームした”というようなケースもある。悪質とは言い難いものも含まれているんです」
と、宮内さんはこの流れに首をかしげる。そして、プロの後見人が安心かといえば、そうとも限らないのは冒頭で述べたとおり。最高裁判所の調査では、専門職の後見人による不正の被害は年平均2億円、1件あたり平均950万円だ。
例えば、プロの後見人によるトラブルとして、宮内さんは実際にこんな相談を受けている─。父親が亡くなり相続が発生したことで、「精神障害のある弟に後見人を立てる必要がある」と言われたBさん。弟の後見人として家裁に選ばれたのは、弁護士だった。
この弁護士が後見人として信じられない行為を連発した、と宮内さんは指摘する。
「精神科病院に入院している弟さんに会おうともせず、姉であるBさんに、弟の財産をどのように動かしているかという報告書も見せませんでした。さらに14年たち、弟さんが亡くなったあとで調べたところ、驚きの事態が発覚しました。弟さんが相続していた実家が、後見人によって、Bさんに相談なく格安で売却されていたのです」
後見人だった弁護士に格安で売却した理由を聞いたところ、「実家はメッキ工場だったので、汚染調査や撤去にお金がかかるため、その値段しかつかなかった」と釈明。しかし、実家がメッキ工場だったという事実はない。