「救急車で運ばれると、即入院でした。検査の結果、ANCA関連血管炎に伴う急速進行性糸球体腎炎に罹患していることがわかりました。20〜30万人に1人の病気といわれている原因不明の指定難病でした」
ANCA関連血管炎は、普通であれば人間がつくることができないANCAと呼ばれる自己抗体が血液中に出現し、その結果、毛細血管を攻撃して炎症を起こす病だ。
自分の腎臓を移植することに決めた理由
「毛細血管がたくさんある臓器は腎臓と肺だそうです。彼女は、血糖値が高いわけでもないし、お酒も飲まない。健康な生活を心がけていただけに、原因不明と言われ戸惑いました」
ANCAによって腎臓機能が低下する。つまり、ANCA関連血管炎と急速進行性糸球体腎炎、双方を同時進行で治療していかなければいけないことを意味する。大量の投薬に、むくみや発熱など、田代さんの負担は筆舌に尽くし難かっただろう。その後、なんとか特効薬が効き、ANCA関連血管炎は寛解し、田代さんは退院することができた。
「ホッとしました。ですが、薬の副作用で免疫力が低下して急性腸炎や尿路感染も起こしてしまって。ようやく体調が安定してきたのは、昨年の夏くらいから……といっても、腎機能の低下は続いています」
腎機能を表すeGFRという数値がある。89〜60であれば正常値。ところが、田代さんは入院時がひと桁台、今現在も15という低い数値にあり、「末期腎不全」という扱いになる。
「何度も支えてきてもらいました。自分が支える番です」
現在、松野さんのSNSをのぞくと、毎日、「備忘録〜本日の相方の朝食・昼食・夕食」と題し、写真とともに献立が掲載されている。タンパク質、塩分、カリウムの量も記載。これらの腎臓病制限食は松野さんが作り続けているのだ。
「自分の肉体改造を始めたときに自炊するようになったので、苦じゃないんです」
そう笑うが、田代さんが退院してから毎日こしらえ、
「腎臓に負担をかけないように管理栄養士さんの栄養指導を受けながら作っています」
と話す声からは、彼女への思いが痛いほど伝わってくる。
「近い将来、彼女のeGFRはひと桁に落ちるそうです。そうなると透析か腎移植をするしかない。実は、彼女が入院していたときから自分の腎臓の提供を考えていました」
透析を選ばなかったのには理由があるという。
「彼女は歌手。スケジュールはイレギュラーですから、週に何度も通わなければいけない透析よりも腎移植のほうがいいだろうと。彼女の行動を制限するようなことはしたくなかった。亡くなった方から腎臓を提供していただく献腎移植も考えたのですが、ドナー登録者がとても少ないため断念しました。それで、私自身が提供する生体腎移植を選びました」