楽しいか、役に立つか、描きたいか

 キュンちゃんのキャラクターを売り込む際は、広告代理店に対して自らプレゼンしたという。

「PRキャラクターのお仕事は、たいてい代理店との共同作業でクライアントに売り込みますね。私、これまでほとんどの仕事をプレゼンで獲得してきたんです。普段は自宅でちまちま絵を描いているので、外出先で多くの人に語りかけるのってすごく異世界だなと思って、テンションが上がります」

『エゾモモンガ』や『トゥレッポん』のイラストも、そらの好奇心でプレゼンに挑み、勝ち取ってきた仕事だ。

 楽しいか、役に立つか、描きたいか──。

 プレゼンに挑むときも、オファーを受けるときも、仕事ではこの3つを念頭に置いているという。それらが合致せず、どうしたらいいか悩むこともあるが、一緒に仕事をする人を信じられそうなときは、即断する。

「そうすることで、いい結果になったほうが多いかもしれません。私がいつも人に恵まれていることもあると思います。

 プレゼンが好きなのは、お客さんが求めているものを提案する側が考えたうえで出し合って、最もいい案が選ばれるから。何も決められないまま延々と会議が続くよりも、実はプレゼンって効率的でもあると思うんです。そうして目的が近しい人たちと出会うと、仕事が楽しくなって、さらに世の中に役立つものになる」

 '11年にキュンちゃんの仕事を勝ち取った際も同様だった。北海道観光振興機構で長らくキュンちゃんの宣伝戦略を担当している林麻奈美との一連の仕事も、こうした好例だ。

「キュンちゃんに両親がいるならば、私と林さんです」

 と、そらは笑う。林が当時を振り返る。

「例えば、こちらが何かお願い事をすると、必ずプラスアルファされたお返事が届くんです。アイデアにしてもデザインにしてもそう。だから、キュンちゃんのイラストを提供していただいただけでお仕事は終わらず、そらさんのアイデアからどんどん生まれていくものがありました。

 キュンちゃんの被り物は、知床ならクマになりますし、十勝はウシで、釧路だとタンチョウといったように変化します。被り物もそらさんのアイデアで、新たに描いていただきました。

 キュンちゃんの被り物を変えることで、その土地の魅力を伝えるんです。そもそも最初の代理店さんとの打ち合わせで、サラサラと下書きしたものが、ほぼ完成形のキュンちゃんだったということを後日知って、すごく驚きました」