「日本は遅れている」わけではない
なぜ海外ではダイエットの薬として認められているのに、日本では認められていないのか。
「アメリカではBMI30以上の肥満症患者4000人に、GLP-1製剤を投与する臨床試験を行い、9割の人に減量が見られたため肥満治療薬として承認されました。それなら日本も早く肥満症の臨床試験をやればいいのにと思うかもしれませんが、BMI30以上というのはかなりの太っちょ。
アメリカでは国民の40%もいますが、日本では5%程度にすぎません。対象患者が少ないため臨床試験がやりづらいのです」
実際、日本やアジアに多い糖尿病の治療薬としては認可が下りているため、ダイエット薬としての日本の承認が単純に遅れているわけではないのだ。
「ダイエットでの使用は日本では認められていませんが、保険のきかない自由診療でなら使うことができます。ただ、国内ではダイエット薬としての臨床試験は行われていませんし、海外で行われているのはBMI30以上が対象。
日本でその薬を使っている人の多くは30以下なので、30以下の人に使った場合にどんな危険な副作用があるかわからないところがいちばんのリスクです。
また、糖尿病患者への処方でわかっている主な副作用は、胃腸の働きが緩やかになることで生じる吐き気など。やせるためなら我慢できるという人もいるかもしれませんが、この薬はのむのをやめると高い確率でリバウンドするので、薬の力だけでダイエットしたいのなら一生吐き気を我慢し続けることになります」
問診票の提出だけの処方は避けるべし
使用が認められていないのに、なぜこの薬は入手可能なのか。
「GLP-1は2型糖尿病の治療薬として承認されているため、国内でも自費なら簡単に手に入ります。また、副作用がわからない反面、目の前の患者のやせたいという希望を叶えたいという思いで処方している医師が多いのも事実です」
いわゆる「やせ薬」には、ほかにもBMI35以上で保険適用になる食欲抑制薬「マジンドール」や、巷で販売されている「ダイエットサプリ」などがあるが、GLP-1とは比べものにならないほど効果が薄いという。未認可でもGLP-1の需要が増えるのは当然なのだ。
「効果の高い薬なので、ダイエットでの使用が広まった以上、いまから全面禁止にするのは難しいと思います。できればアメリカに倣ってBMI30以上の肥満症患者には保険適用で認可するのもひとつの手だと思います。登録制にすれば、不正処方も減らせるはずです」