語り好きなシニアは“いいお客”
だがいちばん大きいのは、やはりお金の問題。
自費出版の打ち合わせで最初に聞く費用は最低限の基本料金。オプションで装丁や本の形にこだわったり印刷部数を増やしたりすればその分お金がかかるし、本を多くの書店に置いてもらったり、一生に一度だと新聞に広告を載せたりするとなればさらに多額の資金が必要だ。
こうして追加の依頼を重ねていくと最終的には思いもしなかった額の請求が届くことに。
ほかにも「つい筆がのって家族や知人の内輪話のようなことを書いてしまったら、できあがった本を読んで、勝手なことをした、とさんざん文句を言われた人も」(馬場さん、以下同)というような話も少なくない。
「プロに任せているからなんでも安心と考えるのは大きな誤解。“自費”というだけあって最終的な責任は著者にあるのが自費出版。
出版社のほうも著者の希望をできるだけ叶えようとしますが、その結果、費用が膨れ上がったり人間関係がギクシャクするようなことになったとしても、それは著者の望みを実現しようとしたのだからしょうがない、となってしまう。
出版社が無断で何かするようなことはないが、後々、問題になるかもしれないからとあらかじめブレーキをかけてくれるわけもないんです」
「自費出版は決してシニア層に限ったものではありません。ただ一般的にシニアの方々は自分のことを話すのが大好き。人生の折り返しを過ぎると『頭の中を整理したい』『誰かに気持ちをわかってほしい』という欲求が強くなるようです。だから“自費出版ビジネス”にとっては、とても相性のいいお客になりがちなんですよ」
いくら商売だからとはいえ、出版社も無用のトラブルは少しでも避けたいというのが本音。大手の自費出版部門のなかにも、あえて「自費出版でよくあるリスクとその対策」といった形で、本作り希望者のヒートアップしかねない気持ちを冷静に引き戻すような注意喚起を行うようなケースも出てきている。
「自費出版トラブルの原因の大半は、ずばり『確認不足』によるもの。出版側のセールストークであれ、身内や友人たちとの関係であれ、もちろん必要な費用についても、納得のいくまで調べたり人に聞いたりしたうえで、事前確認さえすれば後になって出てくるトラブルの芽は摘み取れるんです」
“自分もついに作家デビュー”などと浮かれているあいだに、虎の子の退職金がガクンと目減りしないよう、自費出版はあくまで自己責任、と心得たい。
お話を伺ったのは……
つるま行政書士事務所所長、一般社団法人自分史活用推進協議会監事。東京町田を中心に、地域課題に取り組むコミュニティー事業を展開。自分史やエンディングノート活用のトータルメモリーサポートや、専門家ネットワークを駆使した相続手続きコーディネートも。
取材・文/オフィス三銃士