“迷わない収納”へ使い勝手をアップグレード

 仕事柄、好みの器や試してみたい生活道具を見ると、つい買ってしまう高森さん。

「整理整頓は嫌いじゃない。若いころは雑誌に載っている収納アイデアなどを参考に、実践していました。夫に頼みDIYをしてもらうことも」

 壁面に取りつけた有孔ボードには、鍋敷きや籠をひっかけたという。

食器棚から引き出し収納に変えた。壁のつり戸棚を減らしたことで壁面がすっきりして、開放感あふれる台所に 写真提供/長谷川潤(書籍『85歳現役、暮らしの中心は台所』より)
食器棚から引き出し収納に変えた。壁のつり戸棚を減らしたことで壁面がすっきりして、開放感あふれる台所に 写真提供/長谷川潤(書籍『85歳現役、暮らしの中心は台所』より)
【写真】壁に有孔ボードを設置して、ザルなどをつるしてスペースを有効的に活用

「食器棚の可動式の棚板を1枚外して、大皿や中皿を立てて収納してみたり。

 奥行きのある食器棚は、食器を奥まで入れると取り出しにくいので、棚の奥に空き箱を入れて場所をふさぐといった細かい工夫もしていました」

 少しの手間で使い勝手を改善できることもある。しかし、取り出しにくい場所のものはやっぱり使わないままになったり、台所に対する満足度はだんだん下がっていく。

80歳過ぎてから知り合いに車イスを使う人が多くなったんです。

 私も万が一に備え、車イスになっても料理ができる台所にしておきたいと思って、リフォームを決めました」

自分の料理は好きな道具と器で

 リフォームを機に“断捨離”も試みたが、捨て難いものがほとんどだったという。処分できたのは、スイカを丸く抜く便利グッズやチーズおろし器など使用頻度が少なくなった調理小物、2人暮らしでは使わない重い鍋など。鉄のフライパンは手放して、手入れが楽なものに買い替えた。

「以前から『年齢的にこういうのは使わない』と思ったものは、『いらなかったら返して』と言って、近くに住む姪(めい)や若い知人に譲っていました。愛着がないものは手放せるんですよね」

 長年しまい込んでいたものの多くは来客用。今は外で人と会うことも多いので、処分するのは苦ではなかった。反対に取材先で求めた器や、使いやすくて愛用している道具は手放せない。

「私にとって、ものは大切。でも、いつか時期がきたら人に譲りたいものもあります。『この人にあげたい』ものもあるし、すでに『これが欲しい』と言われている品がいくつも(笑)。自分が心地よく使えるうちは、好きなものを使っていきたい。その点はあまり型にはめなくてもいいかな、と思っています」

食事作りに愛用しているのが、野田琺瑯の調理器具と保存容器。 写真提供/長谷川潤(書籍『85歳現役、暮らしの中心は台所』より)
食事作りに愛用しているのが、野田琺瑯の調理器具と保存容器。 写真提供/長谷川潤(書籍『85歳現役、暮らしの中心は台所』より)

 以前から使っているものの中には、後期高齢者となった今、大活躍しているものも。

 その1つが「野田琺瑯(ほうろう)」の鍋や保存容器だ。ミルクパンは2人分の味噌汁を作るのにちょうどいい大きさ。

「残ったときは保存容器に入れ替えたり、鍋ごと冷蔵庫内へ。鉄なので冷蔵庫内と同じ温度まで冷えるそうです」

 2つ目は漆の器。   

「陶磁器と比べ、軽いのが何よりの利点です。熱い料理を注いでも気にせず持てる。使っているうちに色ツヤが増してくるんですよ」

 食事のときに食器の下に敷く折敷(おりしき)もおすすめ。食卓の上が散らかっていても折敷を使えば食事スペースがとれて、落ち着いて食事ができる。

ふだん食事に使っている漆の汁椀と飯椀は、値段も手ごろ。漆器でいただくご飯とみそ汁のおいしさは格別 写真提供/長谷川潤(書籍『85歳現役、暮らしの中心は台所』より)
ふだん食事に使っている漆の汁椀と飯椀は、値段も手ごろ。漆器でいただくご飯とみそ汁のおいしさは格別 写真提供/長谷川潤(書籍『85歳現役、暮らしの中心は台所』より)

 処分をしないで、以前とは異なる用途で使っている器もある。例えば、染め付けの大鉢は、以前は来客時に煮物を入れておもてなしに使っていた。今ではお昼にとろろそばを食べるときに用いる。

 複数持っている急須も処分はしていない。1人用、2人用、紅茶用など用途で使い分けたいからだ。

「どれも20年以上の愛用品。おいしいお茶を飲みたいので、今は使い続けたいです」