調理のやり方も今の自分に合わせて
「今、自分が高齢者になって思い出すのは亡くなった母のこと。楽をさせたいがあまりに、家のことを代わりにしたり、母が時間をかければできることを取り上げていました。
でも、ちょっとやりすぎていた。シニアの作業をあえて時短にする必要はありません。自分のペースでやれることをやったほうが楽しいのに、私は母からそんな機会を奪っていたかもしれないですね」
心配し、助けてもらうのはありがたいが、多少負荷をかけたほうが頭を使うし、やる気も出る。“若い”ときには気づけなかったことだと話す。
調理のやり方も変わってきた。以前は休日に「作り置き」をしていたが、今はゆでたブロッコリーや戻したわかめなど、すぐに料理に使える「料理のもと」を作っている。
「料理のもとは時短というより、おいしくするための工夫のひとつ。私にとって料理がより面白く、よりおいしくなることが大事なんです」
新聞で紹介された調理法を自分流にアレンジして取り入れることも。例えばきゅうりの輪切り。スライサーを使えば早いが水っぽくなりやすいので、丁寧に包丁で切る。
「きゅうりは1.5mm厚さに切れば、冷蔵庫で保存してもずっとパリパリのままだと、知人に教わりました。やってみたら本当にそのとおりね」
生鮮食品の買い物は、近くのスーパーマーケットへ1人で行く。ただし、忙しいときに備え、卵やパン、ソーセージなどのお気に入りの商品は、通販で取り寄せる。重量のあるお米や野菜ジュースも宅配を利用。自分のやり方を年齢に合わせて、少しずつ見直している。
「もともと嫌いではなかったけど料理をするのは、今がいちばん面白いの。年齢とともに、居心地がいい住環境は変わっていきます。これからも台所を私にとって楽しい場所にしていきたいです」
限られたスペースを有効に使う工夫
●お皿を立てる
大皿中皿は重ねずに縦置きしたほうが、サッと取り出せる。深い引き出しの中を仕切って1枚ずつ収納。
●器の定位置をつくる
器の大きさに合わせて100円グッズで仕切り、器の定位置を決めている。目当てのものが探しやすく出し入れも楽。
●壁面を使う
壁に有孔ボードを設置。鍋敷きやざるなどをつるしている。好きな場所にフックをつけられて便利。
高森寬子さん ●ギャラリー「スペースたかもり」主宰。エッセイスト。婦人雑誌の編集者を経て、生活道具の作り手と使い手をつなぐ存在に。著書は『85歳現役、暮らしの中心は台所』(小学館)など。今は年に5〜6回、企画展を開催。
〈取材・文/松澤ゆかり〉