瞬く間に消えた老後のための大金

 自宅売却を検討する理由は、手元に現金がないからというケースも。最後に残った財産である不動産を売り、現金を得ようというわけだ。

 これを実行したのがひとり暮らしの伊東さん(仮名・70代女性)。自宅を担保に資金を融資してもらう「リバースモーゲージ」という制度(詳しくは左下参照)を利用し、1000万円ほどを融資してもらった。

 金利を払いながらではあるが自宅に住み続けることもでき、老後資金も手に入り、これで安心な老後が送れるはずだったのだが……。

「お金が手元に入ったので、子どもや孫にいろいろしてあげたくなってしまったようでして。そうしたら、あっという間に貯金が減ってしまったんです。

 こんなはずではなかったんですが突然、大金を手にして浮かれてしまったと話していました。たったひとつの財産だった持ち家ももう担保に入れてしまったので、不安で仕方がないと」

 大金を持ち慣れない人が急に高額の現金を持つと、管理しきれずこうなってしまうケースも少なくないのだそう。現金がないと不安、というのもわかるが、現金にするとすぐに使うことができるのも事実。

 売却するにせよ、現金になった資金をどう運用するのか、使いすぎないように前もって準備をするのが大切だ。大金を手元に置く、心の準備もしておいたほうがいい。

自宅を大金にかえて失敗ケース(イラスト/伊藤和人)
自宅を大金にかえて失敗ケース(イラスト/伊藤和人)
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◆教訓◆
6.リースバック、リバースモーゲージは最終手段
「手元に現金がなく、かつ自宅に住み続けたい事情がある人にしかおすすめしません」自宅を売ったり、自宅を担保に融資してもらったりする方法だが、どちらも融資額が希望に満たない場合も多いためだ。

7.大金を持ち慣れない人は要注意
 一瞬にして入ってきた大金に浮かれることなく、管理するのはかなりの自制心が必要。使いやすい形で現金を置いておくのは危険を伴う。老後の住み替えに存在する、さまざまなリスク。将来を見据えて自身の終のすみかについてプランを立てておくことが、幸せな老後への第一歩なのかもしれない。

できればやりたくない最後の手段…自宅を現金化するワザ

リースバック
 自宅などの不動産を売却し、売却先と賃貸借契約を結ぶ。所有者は売却代金を得つつ、住み慣れた自宅に住み続けることができるが、売却代金に対して一定の割合で家賃が発生する。

リバースモーゲージ
 自宅を担保にして金融機関から融資を受ける制度。融資によって現金を得られ、金利のみを支払いながら自宅に住むことができる。ただ、融資額は売却する場合の値段より少なく、半額以下となってしまうケースも。

(取材・文/野沢恭恵)