寿司職人が不足だから高給で求人
なぜ、寿司の技術がこれほどまで重宝されるのか。その1つが、寿司業界が置かれた慢性的な“人材不足”。
「イタリアンやフレンチなどの洋食を学びたい人に対し、寿司や和食を学ぶ人自体が圧倒的に少ない。“働き方改革”が叫ばれている昨今ですが、和食の現場は相変わらず厳しく封建的なイメージが残っていることも目指す人が少なくなっている要因だと思います。学校を卒業し、最初に就職をした高級寿司店でさえ人手不足で“握れる基礎があるなら、未経験者でもどんどん握ってほしい”という雰囲気がありました」
さらに追い風となっているのが、世界的な寿司人気の高まりだ。海外では本格的な寿司店からカジュアルなテイクアウト店、デリバリーなど裾野が広がり、国内ではインバウンド需要も相まって、都市部の高級寿司店は盛況。“うまい寿司にならいくらでも払う”富裕層が流れ込み、ますます“寿司が握れる人”の奪い合いとなっている。
「コロナ禍でも寿司店はつぶれず、出店数は右肩上がり。“寿司が握れます”は、仕事を得るための確実な武器になっていると感じます」
その技術は寿司職人以外にも活かす道が。働き先の間口は広い。
「寿司学校で身につけた“魚を捌く”という技術もまた、需要が大きい。鮮魚店はもちろん、和食などの飲食店でも働き手として求められます」
飯田さんと一緒に寿司専門学校で学んだ60代の男性は、スーパーの鮮魚コーナーへの再就職が決まった。リタイア後の仕事をゲットするために寿司を学ぶのもアリだ。
飯田さん自身は、コロナが収束し、準備が整ったら寿司職人として海外を目指そうと準備をしている。
「不況の日本でしのぎを削るより、給与水準が高い海外に挑戦したほうが、夢がある。日本人は、英語と寿司を学べば海外に出るチャンスは誰にでもあると信じています」
一橋大学卒業後、5年間勤めたIT系の会社を辞め、29歳で寿司学校へ。高級店勤務や出張寿司に携わりながら、海外に挑戦する準備中。
<取材・文/河端直子>