気がつけば死ぬことを忘れていた
「説教くさい大人が対応するのかと思ったら、みんなコギャルっぽい人で。不思議と落ち着いた気持ちになったんです。諭す感じでもなければ、同情でもない。昔からの友人みたいに接してくれたんです。“私もそうだったんだよー”とか言いながら。なんかうれしかった」
気がつけば死ぬことを忘れていた。「もっと一緒にいたい」。仁藤さんたちが、そう思わせてくれたのだという。
その心地よさが忘れられなくて、いつしかコラボに通うようになった。
「そして福祉制度の存在などを知ることができたんです。私、行政とか福祉とか、そうした言葉が怖かったんです。人を苦しめるものだと思っていた。でも夢乃さんが教えてくれた。どんな人にも権利があるんだよ、生きていくために必要だと思えば、そのために権利を主張することができるんだよ、って」
仁藤さんやコラボと出会い、えまさんは変わった。福祉とつながり、生きるために利用できる制度を知り、そしてなによりも─。
「生きていてもいいんだと思えるようになった」
えまさんは「誕生日を祝ってくれた」ことが何よりうれしかったと振り返る。
「だって、誕生日がおめでたいだなんて思ったことがなかったから」
実はこの言葉、コラボを取材する過程で幾度も耳にした。街を徘徊し、絶望の底にいるときコラボと出会った少女たちは、一様に同じことを口にする。
「誕生日って、生まれてきたことを恥じる日だと思い込んできた。親に祝ってもらったことなど一度もなかったし、今年も生きてしまったなあと暗い気持ちになるだけでした」
仁藤さんは仲間や保護した少女たちの誕生日をすべて記録している。必ず祝う。そして「一緒に生きていこうね」と声をかける。
「だから生きていこうと思う。コラボはそんな気持ちにさせてくれた」
えまさんは「私にとってコラボは大切な居場所なんです」と何度も繰り返した。今は関西地方に住んでいるなおさん(22=仮名)は、少年院に入っているときに仁藤さんを知った。
「少年院で夢乃さんの講演があったんです。年齢も近いし親近感を持ちました。院を出てから、住む場所もないしツイッター経由で連絡したんです」
最初の印象は「とにかく食べろ、食べろとうるさい人」だったという。
「ファミレスで会ったんだけど、ダイエット中だからサラダしか頼まなかったら、怒ったようにもっと食べろと、やたらうるさい。何なん? この人って思った」
今にして思えばそれだけ親身になってくれたということだが、そのしつこさには「閉口することばかりだった」と、なおさんは話す。
「向こう(※仁藤さんのこと)は支援なんて気がないから、上からもの言うんじゃなくて、真横から突っ込んでくる。活動を手伝え、さぼるなと、ほんとうるさい。どこにも居場所なくて、援助交際したりして、おまけに少年院まで入ってるのに、たぶん、少しもかわいそうだとは思ってくれなかった(笑)」
その代わり、なおさんもまた、自分が持つべき権利と、必要な制度の存在を知った。