しつこさはヤミ金以上
「それまでは市役所までの道のりすら知らなかったのに、いまでは福祉制度の概要を人に伝えることくらいはできるようになりました。しつこさはヤミ金以上だけど、誰よりも心配してくれる。それが夢乃さんという人だと思うんです」
同じように「コラボに駆け込んだことで、人生が変わった」と訴えるのは関東に住むみわさん(18=仮名)。この春から福祉系の専門学校への進学が決まっている。そんな進路を促してくれたのがコラボだったという。
やはり家庭での虐待が嫌で、児童相談所や友人宅を渡り歩いていた彼女も、ネット経由で仁藤さんと出会った。17歳にして「人生なんて終わってる」と思い込んでいたみわさんは、仁藤さんから「生きていくための選択肢がある」ことを教えてもらう。
「私、何もできないと思っていたんです。進学なんて考えたことなかったし、学校の教師も児相の職員も最初から進学できなくても当たり前なんだという態度でした。
でも、夢乃さんは違ったんです。奨学金という制度のことなどを教えてくれました。権利と機会は誰にでも平等にあるのだと、熱く語ってくれたんです」
そんなみわさんも、今は社会の一部に存在するコラボバッシングに胸を痛めている。
今年3月の高校の卒業式。親との縁が切れているみわさんは、保護者代わりに仁藤さんを連れていきたいと考えていた。しかし、担任の教師からこう言われた。
「卒業式、誰か連れてくるの? まさか仁藤さんじゃないよね。ネットで炎上してる人だよね? 絶対、学校の敷地内に入れちゃだめだからね」
残念ながら、それが社会の温度というものだろう。すべてではないが、一部では確実に、何の根拠も理由もなく、仁藤さんを「叩く」べき存在に押しやっている。
背景にあるのは、女性に対する差別と偏見、そして「公金横領」という勝手な思い込み、さらには、「社会を変える」と主張している仁藤さんへの警戒心であろう。
公金の使い道など考えたこともなかったような人々が、まるで大疑獄事件でも起きたかのように騒ぐのも、その当事者が女性であることが大きな理由の一つとなっているはずだ。仮にコラボが男性による団体であったなら、ここまで騒ぎは大きくなっていない。
先頭に立って闘う人が、はっきりものを言う人が、そして男性中心の社会に異を唱える人が、バッシングされる。私がこれまでさまざまな取材現場で目にしてきた「日本の風景」でもある。
だいたい、中傷に血道をあげる者たちは、行き倒れた少女をひとりでも救ったことがあるのか。
ですよね、仁藤さん。私が持論を伝えても、仁藤さんは「どうなんですかねえ」と、やっぱり首を傾げて笑顔を見せるばかりだ。
「私はただ、つくりたいだけなんですよ」
何を? 私の問いに仁藤さんはこう続けた。
「痛いときに痛いと言える社会。暴力や支配も受けることなく自由に生きることのできる社会。これまではじかれてきた人たちと一緒に、そんな社会を目指していきたいんです」
筋違いの非難と憎悪を全身に浴びながら、それでも到達すべき地平をしっかり見据えている。そんな仁藤さんを、今日も誰かが必要としている。街の片隅で。ネオンの下で。泣きながら、苦痛にあえぎながら、その手に触れることを、じっと待っている無数の少女たちがいるはずだ。
<取材・文/安田浩一>
やすだ・こういち ジャーナリスト。1964年生まれ。週刊誌記者を経て2001年よりフリー。事件・社会問題を中心に執筆活動を続けている。講談社ノンフィクション賞を受賞した『ネットと愛国』(講談社)ほか、著書多数。