一方で、こうした笑いが廃れたわけではないという。
「すべての人が時代遅れだと感じるわけではなく、“押すな”と言って水に落とすという流れはYouTubeなどでZ世代の人たちもやっています。伝統芸能のような形で受け継がれてはいますが、ペンギンの池に落ちた時のように、危険だと思わせると、不快だと感じると同時に、Z世代からすれば、古い笑いだとも思われてしまいます」
若者の目に映る“過激な演出”
加藤も出演していた『めちゃイケ』をはじめ、往年の人気バラエティー番組では、ペンギンのいる池に落ちるどころではない、過激な演出が当たり前だった。
そのような番組はZ世代の目にはどう映るのか。若者文化に精通している芝浦工業大学の原田曜平教授はこう説明する。
「昔のバラエティー番組について話すと、学生は本当にびっくりします。出演者が喫煙しながら収録をしていたとか、激しい暴力シーン、『電波少年』で松村邦洋さんが本当に拉致されたり、追いかけまわされたり。今回のような動物のいる池に落とすのも昔は当然のように行われていました。そういった過激なバラエティー番組は今の若者にはショックが大きく、引くほど驚いてしまいます」
“ドン引き”する若者ではあるが、過激なものを見なくなったわけではないようだ。
「YouTubeやTikTokでは過激な映像が多くあります。“パワハラエンタメ”という、上司が部下に対して激しく詰める動画が、TikTokでは人気コンテンツになっています。また、さらに過激なものでは、ホームレスの女性に嫌がらせをする動画もバズった後、炎上していました」(原田教授、以下同)
テレビはダメだが、ネットでは大丈夫。その違いはどこにあるのか。
「今の若い世代は、テレビが品行方正になってしまった時代を生きているので、テレビにはコンプライアンスに従ったものを求めます。ただ、過激なものを見たいという欲求は変わらない。それを規制の少ないネットメディアに求めています。先ほどのパワハラエンタメもテレビでやったら炎上しますが、YouTubeやTikTokなら受け入れられる。昔のバラエティー番組についても、内容もそうですが、“こんな過激なものをテレビでやっていた”という事実に驚いているようです」
過激な笑いは“オワコン”ではない。だが、テレビがその役割を担う時代はすでに終わったのかもしれない。
衣輪晋一 メディア研究家。雑誌『TVガイド』やニュースサイト『ORICON NEWS』など多くのメディアで執筆するほか、制作会社でのドラマ企画アドバイザーなど幅広く活動中
原田曜平 マーケティングアナリスト。芝浦工業大学教授。信州大学特任教授、玉川大学非常勤講師。BSテレビ東京番組審議会委員。『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)など著書多数