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真っ白に塗られた肌に太く黒々としたアイライン、結い上げた白髪、曲がった腰で着こなす純白のドレス。実在した老娼婦・ハマのメリーさんをモデルに描く一人芝居、『横浜ローザ』の幕が今年も上がる。演劇を通し平和を伝えてきた女優・五大路子さんは、この舞台を「ライフワーク」と言ってはばからない。ウクライナで戦火の広がる今、伝えたい「戦争で青春をちょん切られた」女たちの物語とは―。
五大路子さんが娼婦の役を演じる。しかも一人芝居で。モデルは伝説となっている「ハマのメリーさん」─。そんな話を聞いて、私が『横浜ローザ』を見に出かけたのは1996年のことだった。
五大路子演じる娼婦ローザ
五大さんといえば、美形で、NHK連続テレビ小説『いちばん星』で主役を演じたキャリアから正統派のイメージが強かった。しかし幕が上がると、娼婦をせざるをえなかったこと、恋した男もその息子も戦争に巻き込まれてしまったこと─。過酷な経験がローザによって語られ、戦争が、いかに人生をズタズタにしてしまうか訴えかけてきた。
ただ、この芝居からいちばん伝わってきたのは、どんな悲惨な状況に置かれても「生き抜く力」だった。
「あなたの娼婦はキレイすぎるんだよ」
五大さんはそう評価されたことがあったという。しかしむしろドロドロとしていないからこそ、戦争の悲惨さが伝わってきた。時々、おどけたり、冗談を言ったりすることで、したたかに生きるローザの姿が浮き彫りになった。
初演から27年がたった。その間、コロナによる中止以外はほぼ毎年、再演されてきた。
なぜ五大さんは『横浜ローザ』を演じ始めたのか。その人生をたどると、幾度も生きる気力を失いそうになりながら、女優としての危機に直面しながら、それを乗り越えての答えだったことが垣間見える。