仲間の支えもあって横浜夢座結成24年
横浜夢座を結成して今年で24年になる。決して平坦な道のりではなかったが、いつも助けてくれる人がいた。
初回の『横濱行進曲』から夢座の作品に出演している俳優・増澤ノゾムさん(56)は、稽古場に行って驚いた。関係者やスタッフに舞台の製作経験者がほとんどいないのである。五大さんが企画、プロデュースなど、一人で何役も担っていた。五大さんが協賛企業を集めるために直接頭を下げて歩いていたのだ。俳優ではかなり珍しい。
また、五大さんが主役なのに、芝居以外にやることが多いから稽古場にいない。稽古を管理できる人もいない。
「役者は集まるんだけど稽古ができないわけです。さすがにこのままでは幕が上がるのかと心配になってきて、俳優の中では五大さんに掛け合いましょうという話が持ち上がってきたのです」
これは分裂騒動になっちゃうなと思った矢先だった。
「豚汁作ったわよ、みんな食べて~!」
と、大きな寸胴を持った五大さんが現れたのである。
あっけにとられた団員たちも言いたいことはいったんおさめて、食べ始めた。豚汁は思いのほかおいしかった。
「お腹が満たされたら怒りも収まるじゃないですけど、じゃあ稽古しましょうかとなって、結局は丸く収まった。綱渡りではあるけど、どこか微笑ましいみたいな。夢座には、そんな感じのムードがずっと流れていましたね」
五大さんがやり残したことは、誰かが埋めていく。それをみんな嫌々やっているのではなく、五大さんの夢のために手伝っている。それが夢座という劇団なのだ─。増澤さんはつくづく、「五大さんは不思議な吸引力を持った人だな」と思った。
その後、組織はかなり整備され、世代交代もした。今、朗読劇なども含めて、横浜夢座を支えているのは30~40代が多い。それがうれしいと五大さんは涙ぐみながら言う。
「この仲間が私にとって最高の宝物なんです。いくら思いがあっても、私一人では実行できません。仲間が支えてくれて初めてできる。目の下にクマをつくって一生懸命やってくれる……。この人たちに託せば、私がこの世からいなくなっても夢は続くから」
今年も『横浜ローザ』の季節がやってきた。
再演だけれども、五大さんは1か月前から稽古を続ける。自分でもいつまで続けるのかと思うときがある。
「私はこの芝居をやり続けなければと思ったことは1度もありません。戦争のことを伝えなければ、とも思っていない。ローザが私に“やるのよ”って言いに来るんです。つまり、“ローザの命が私の身体を借りに来る”。それがあるうちは続けます」
ウクライナ戦争が始まって2年になる。五大さんは昨年、『横浜ローザ』の公演中に集めた募金や千羽鶴を携えて、ウクライナ大使館を訪れた。
「自分にできることを、今自分がいる場所でやっていこうと思います。その思いを『横浜ローザ』の中で紡いでいくつもりです」
今年もまた、間もなく5日間の幕が開く。
五大路子さんによる一人芝居『横浜ローザ』は5/19(金)~23(火)に、横浜赤レンガ倉庫ホールで上演。各上演後には五大さんとゲストによるアフタートークも。横浜夢座の詳細はこちら
<取材・文/西所正道>
にしどころ・まさみち ノンフィクションライター。雑誌記者を経て現職。人物取材が好きで、著書に『東京五輪の残像』(中公文庫)、『絵描き 中島潔 地獄絵一〇〇〇日』(エイチアンドアイ)などがある。