初めて向かった夫の故郷はギャング映画のような風景
C–5が向かうのはアメリカ・カリフォルニア州にあるトラビス空軍基地。1歳になったばかりの娘を抱え、約10時間の試練の旅が続く。
「機内アナウンスもなければ、時計を持っていなかったので時間もわからず、窓がないので今どの辺りにいるのかわかりません。はたして食事は出るのだろうか、娘に食べさせるものもなく、この先どうなるのか不安がどんどん募ります。
水平飛行に入り、しばらくすると食べ物が配られました。レンジでチンのいわゆるTVディナーでしたが、そこで人心地つけた気がします。飲み物は段ボール箱に用意してあり、『自由にピックアップするように』とのこと。
ご飯を食べてほっとしたのか、娘も少し寝てくれました」
シンシアを乗せたC–5は無事トラビス空港に到着。空港からバスに2時間揺られてサンフランシスコへ行き、さらに国内線に乗ってニュージャージーへ向かう。
「翌日の夜11時半、ようやくニュージャージーに着きました。夫の家族が空港に勢ぞろいしていて、お義母さんが『よく来たね!』と私をハグしてくれました。その瞬間、安堵の涙があふれてきました。
けれどほっとしたのもつかの間でした。夫の実家に着き、ここで娘と45日間過ごすのかと愕然としました。エレベーターもない3階建ての古びたレンガ造りのアパート。建物の間に綱渡りのようにロープが渡され、色とりどりの洗濯物がはためいています。
部屋は狭く、リビングに小さなキッチン、ベッドルームが2つあるだけで、お義母さんは『私の寝室を使うように』と言います。ダウンタウンだと夫に聞いてはいたものの、まさに『ニュー・ジャック・シティ』のようなギャング映画の風景で、今にも撃ち合いが始まりそうな雰囲気です」(次回に続く)
<取材・文/小野寺悦子>