ボストン美術館から作品展示のオファー
仕事に対し、どんな発注も受注できる態勢を整えておくことが三井さんの流儀だ。「どちらかっていうと、やるべきことをやっていれば、チャンスがいずれ来るだろうと考えています。自分から積極的にチャンスを狙いに行くというより、チャンスのためにしっかりと準備をしておくという考え方ですね」
今年、意外なチャンスが2つ舞い込んだ。両者とも、三井さんでなければ成立しない、必然的なオーダーだった。
現在、米ボストン美術館で開催されている『北斎:インスピレーションと影響力』(7月16日まで。その後シアトル美術館を巡回)に、北斎の版画『神奈川沖浪裏』のレゴ作品が展示されている。
「アメリカの美術館で自分の作品を飾りたいと、前々から思っていた。キュレーターの方が直接メールをくださって、ピンポイントで名指しで選んでいただいた」とチャンスの到来に静かに小躍りした。
大阪・梅田の商業施設『阪急三番街』北館1階『HANKYU BRICK MUSEUM』に展示されている同作品をボストン美術館に貸与。今年3月、『阪急阪神不動産株式会社』が発表したリリースには《躍動感あふれる波しぶきにもこだわって精細に再現しており、浮世絵とは一味違った雰囲気を感じていただける作品になっています》と紹介されている。
1枚の手描きの設計図と、解像度の高い写真を手に、約3か月かけて同作品を組み上げた三井さんの頭には、波に関する知識も詰め込まれていた。
「波の専門家が見てもおかしいと指摘されないように、10メートルを超える巨大波がどのようなメカニズムでできているのか論文を4、5本読んで、それを考えながら表現していきました」という5万ピースの労作で、「直方体のレゴ ブロックを敷き詰めるだけでは均一な感じになってしまうので、波頭の部分に細かいカーブをつけたり、船に近い場所の波の大きさを変えたり、場所によって見た目の解像度を変えました。パソコンの設計だと見逃されがちなポイントだと思うので」と、らしさを込めたことに言及する。
三井さんはボストンのラジオ局『wbur』の取材に「激しく揺れる明るい青と白のレゴ ブロックの海に浮かぶ小さなレゴの船長のような気分になってほしい」と答え、いろんな角度から体感できるレゴ表現ならではの魅力を伝えている。
阪急阪神不動産広報は「『神奈川沖浪裏』は2020年12月11日に展示されました。それまでは地元にゆかりの場所がメインだったので、初めてのそれ以外の作品となり好評をいただいていました。現在、その作品があった場所には、『宝塚大劇場』が展示されています。ボストンから作品が戻ってきた際は、再展示をしたいと考えています」と、ひと回り成長を遂げての凱旋帰国に期待を寄せた。