食べて終わりではなく移住までつなげる施策
田中さんも数多くの食のプロジェクトに携わってきた。
「宮城県登米(とめ)市のソウルフード『はっと』のプロモーションでは、『登米無双』というPR動画が100万回再生を達成。大きな話題となりました」
はっととは小麦粉を練ってお湯でゆでたものを汁ものに入れたり、アズキと絡めたりする郷土料理。
「もともとは『市の知名度を上げたい』という依頼でした。そこで何をPRするか考えたのですが、登米市は9つの町が合併してできた自治体で、それぞれ食文化や生活習慣が異なる中、唯一共通して食べられていたのが『はっと』。
江戸時代に当時の大名が『こんなおいしいものを農民に食べさせるのはご法度だ!』と言ったことがその名の由来という説もユニークで、それを念頭に置いて動画を作ったところ、面白いと多くの人が注目してくれました」
プロモーションは成功したが、こういった食のプロジェクトには課題もあるとのこと。
「ふるさと納税もそうですが、食べ物は『おいしそう』『おいしかった』だけで終わりがち。そこから地域への興味関心にどうつなげるかは大きな課題です」
食関連ではないが、この点に工夫をこらしたプロジェクトも。
「私は鳥取市のシティプロモーションも担当しています。そちらでは今、若者に大人気のアーティストである新しい学校のリーダーズとコラボ。新曲『青春を切り裂く波動』のMV撮影を鳥取市で行いました」
人気アーティストが鳥取市でロケをしたということだけで話題になるが、それだけでなく聖地巡礼として現地を訪れるファンも数多くいる。
「地域に実際に足を運んでもらうことはプロモーションの主要な目的のひとつ。地方はどこも過疎化とともに高齢化が進んでいますから、多くの自治体は特にZ世代といわれる20代以下の若い世代からの認知を高めたいのです」
これは移住促進という目的からも理にかなっている。
「Z世代はフットワークが軽いのが特長。何度か訪れるうちにその地域が気に入り、『2~3年間引っ越してみようかな』と軽い気持ちで移住を考える若者は珍しくありません。若い世代のほうが移住への関心が高いことは、調査でも明らかになっています」