紹介状を持って国立がん研究センターを受診。
「とうとう国立がんセンターかと。そこで、放射線治療を受けることになりました。コロナ禍でキャンセルが出たところにうまく予約を入れてもらえましたし、高額だった治療薬は保険適用になったばかりのタイミングでね! ね? 私は本当に、運がいいんですよ(笑)」
がんを経験したことで新たな自分に出会う
がんという病気を経験したことで、扇海さんは新たな自分に出会うことができた。
「以前の私は高座に上がって落語を噺す、ごく一般的な落語家で、自分で落語会を主催することなんて考えもしなかったように思いますね。
でも今は、落語会でお年寄りの方に喜んでもらうような社会貢献をすることが使命なのかもしれないと思うようになりました。東京以外でも落語会や演芸会が開催できるよう、ツテをたどって全国各地に打診しているところなんです」
落語をはじめ、自身が楽しいと思えることが心身の健康につながっている。
「19歳のころから3年ほどフルバンドでベースを弾いていたのですが、最近、また音楽をやりたくなりまして。芸人仲間とロックバンドを組み、つい最近も新宿のライブハウスでライブをしたんです。平均年齢70歳以上のバンドで、途中に余興も挟んだりして、楽しかったですねぇ」
ちなみに2022年には生前葬を行っているのだそう。
「元気なうちに、お世話になった人たちに感謝の気持ちを伝えたかったんです。冗談で『まだ生きてるの?』と言われることもあるものですから。もう一度、生前葬をやったほうがいいのかなぁと考えているところです(笑)」
取材・文/熊谷あづさ
1952年、東京都生まれ。24歳で9代目入船亭扇橋に入門し、2年後に前座(扇たく)、’81年に二ツ目に昇進して扇海を名乗り、’93年、41歳で真打ちに昇進。病気を機に千葉県勝浦市に移住し、勝浦らくご館を設立。がんの治療をしながら、落語会を開催し続けている