お見合で出会ったカップルは、出会ってから数か月で結婚を決めるので、まだ人間関係が密にできあがっていません。付き合いの長い恋人同士ならば、喧嘩をしてもどちらかが謝れば元の鞘に納まることも多い。しかし、婚活カップルは些細な出来事で行き違うと、それが破談につながっていくことがあります。仲人をしながら婚活現場に関わる筆者が目の当たりにしている婚活事情を、さまざまなテーマ別に考えていく連載。今回は、女性の思わぬ言動から破談になったご縁を紹介します。
「焦りすぎですよ」の言葉が命取りに
ゆきえさん(34歳、仮名)は、女子校育ち。恋愛らしい恋愛をしないままに学生時代を過ごし、女子大卒業後は、医療関係の仕事につきました。仕事は日々忙しく、気づいたら30歳。そこからコロナの蔓延もあって、気づいたら34歳になっていました。
そこで、婚活を決意しました。お見合いを始めてみると、結婚までの道のりは簡単なものではありませんでした。自分が“いいな”と思う人にお見合いの申し込みをかけても、なかなか受けてもらえない。申し込みが来るのは、10歳も20歳も上のおじさんが多く、同年代だと自分よりも年収が低くて、会う気持ちになれない男性ばかり。
そんなときに、1つ上の見た目もタイプで経歴も年収もいい、ようじろうさん(仮名)から申し込みがかかりました。
お見合いをしてみると思っていた以上に素敵な男性で、仮交際に入りました。男性経験のないゆきえさんにとって、会話上手でデートの場所もどんどん決めてくれるようじろうさんは、理想の相手でした。
5回目のデートを終え、肩を並べて駅まで向かう道すがら、人気のない小道でふと歩みを止めたようじろうさんが、ゆきえさんの正面に回り込んで、真っ直ぐに目を見つめて言いました。
「ゆきえさんのことは、これからもずっと大切にしていきたいです。僕ら、真剣交際に入りませんか?」
真剣交際とは結婚を前提にした、仮交際の次に進むお付き合いのことです。ゆきえさんには、飛び上がるくらいうれしかったのですが、初めのことだったのでえらく緊張してしまいました。
「は、はい。よろしくお願いします」
この答えを聞くと、ようじろうさんは、ふんわりとゆきえさんを抱きしめました。男性に抱きしめられるのも生まれて初めてのこと。ゆきえさんは、どうしていいかわからず身体を硬直させていました。すると、ようじろうさんが腕にさらに力を込めて、ギュッと抱きしめてきました。
びっくりしたゆきえさんは、反射的にようじろうさんを跳ね返し、言ったのです。
「あせりすぎですよ!」
ようじろうさんは、ゆきえさんの剣幕にびっくりして、「ご、ごめんなさい」と言って、ゆきえさんから離れました。
そこから2人に気まずい空気が流れ、無言のまま駅まで一緒に歩きました。これまで駅で別れるときには、ゆきえさんが電車に乗るまで見送ってくれていたのですが、その日は、改札を入ると、「じゃあ、僕はこっちなんで」と、自分の乗る電車のホームにスタスタと行ってしまいました。
そこから、毎日来ていたLINEも来なくなり、3日後に、相談室を通じて“交際終了”が来ました。
ゆきえさんから、一部始終を聞いて、私はようじろうさんの相談室に連絡を入れました。
「初めての体験でどうしていいかわからず、恥ずかしさも手伝って、『あせりすぎですよ』と言ってしまったようです。ようじろうさんを大切に思っていて好きだという気持ちに偽りはありません」
しかし、ようじろうさんの仲人さんから、数日後、こんな答えが返ってきました。
「何度も説得したのですが、『一度下がったテンションは、もう上がりません』とのことでした」
ようじろうさんにとっては、勇気を振り絞っての行動だった。それを、「焦りすぎですよ」と言われたことで、“恥をかかされた”と思ったのでしょう。
人間関係が十分に出来上がっていない時に下がったテンションは、もう2度と上がらないのです。