Case2:現金は死ぬ前の夫から渡された10万円子どもだってアテにはできない

 お金は夫がすべて管理していたという80代女性のBさんは、生前に夫がどこの銀行を使っているのか、口座をいくつ持っているのか、まるで知らなかった。

 当然、銀行のキャッシュカードの暗証番号もわからず、突然、夫が亡くなったとたん、「当面の生活費がない」という状況に陥ってしまった。

 毎月初めに夫から生活費の入った封筒を手渡され、それで1か月の家計をやりくりするという暮らしを、結婚当初から実に60年の長きにわたって続けてきたという。

 夫が亡くなった時点でBさんの手持ちの現金は10万円、島根さんが相談を受けた際には、残り数千円しかなかったという。

「Bさんの場合は子どもが近くに住んでいたため、生活に困窮することはありませんでしたが、離れて暮らしている場合、そう簡単にはいかないものです。一般に、子どものほうは実家や親はある程度のお金を持っているものと思い込んでいる節があります。

 実際に、実の親子であっても『私たちにも生活があるから困る』などと断られてしまう残念なケースをいくつも聞いています」

 もし、子どもたちに生活費の援助を断られてしまったら、最悪の場合、路頭に迷いかねない。

「夫が生命保険にでも入っていれば亡くなったあとにまとまった死亡保障を受け取れますが、実際には生命保険に加入していない高齢者の夫婦は多いのです。子どもも自活し、ふたりだけなら医療保険でよいと解約するケースをよく見かけます。

 老後の生活はなんとかなっても“夫が亡くなった先の妻の生活費”はどこから捻出するのか、その視点が抜け落ちていないかを元気なうちに話し合ってほしいですね」

Case3:突然届いた借金の督促通知ちょっとした勘違いで借金地獄へ

 60代女性Cさんの夫は昨年6月に亡くなった。夫には特に財産というほどのものがないことを知っていたので、相続などは何の手続きもしなかった。

 葬儀や死後の手続きなどに追われた後、そろそろ落ち着いて遺品整理をしようかと思っていた8月になって、夫宛てに巨額の借金返済の督促状が届いた。

 寝耳に水のCさんだったが、「借金があっても、『相続放棄』をすれば関係なくなる」と気楽に考えていた。

 しかし、Cさんはある勘違いによって借金を背負ってしまうことになる。

「どこかで聞いたのか『相続放棄は3か月以内』と信じ込んで、通知が届いた8月から『3か月以内』に相続放棄すればいいと悠長に構えていたそうです。

 ところが、本来の相続放棄は『相続権があることを知った』時点から3か月以内。そのことに気づいた時にはもう期限はとっくに過ぎてしまっていて、今は借金を返しながら生活しています。これは税理士でもどうにもできません」