金銭的負担や負債は残された子どもたちへ

 月に2、3回ゴミを捨てるためだけに帰省していると語るが、時間的猶予はない。維持する金銭負担がM子さんに重くのしかかるからだ。

「もともとは一区画だった土地を二区画にわけて販売したそうですが、隣家が引っ越したのを機に、父が隣も購入してしまったのです。隣にも家が建っているので、火災保険が2軒で月およそ1万2,000円。年間14万円以上の支出です。家の前に広がる庭地もうちが所有しています。母が亡くなるまで畑仕事に使っていて、現在は荒れ放題。

 母が生きていた頃、伐採を業者に依頼したら、一度で19万円近く支払った記憶があります。近々業者に頼まないとお隣さんの庭に草木がはみ出てご迷惑をおかけしてしまうので仕方ないですが、痛い出費が続きます。

 遺品整理と同時に食器棚などの大物家具も回収してくれる業者をネットで検索したのですが、2トントラック1台で8万円ぐらい。10台あっても足りない。両親ともに節約家で、掛け軸や宝石やブランド物がないことがわかっているのが、救いです。寄付は送料がかかるので、夫と2人で根気強く早めに片づけて、一刻も早く実家終いをするつもりです」

 実家に移住する選択肢は「ないです」と断言する。

「最寄り駅まで徒歩15分をゆうに超える上に、駅までの道のりは日陰が皆無。高齢者が歩けば熱中症になりかねない。母に、真夏の日中は外出しないでと伝えていたほど暑いのです。加えて電車は各駅停車しか止まりません。仕事上、都内に住みたい私にとって、都心へのアクセスが1時間半を超える実家は不便です。私は自営業なので、打ち合わせのみでは交通費が支給されないという、経済的な難点が発生する可能性もコロナ禍より増えてきました。

 実家近辺の、粘着質なおつき合いにも巻き込まれたくない。父が亡くなったときも母のときも、実家のドアを閉めて即、近所の人から電話が来たのです。『どこかから覗き見していた』と想像できたのが、気持ち悪くて」

 実家に住めない理由は人それぞれ。だが、「終活は気力と体力があるうちに。自分のためではなく、家族のために」という現実を直視した気がした。

<取材・撮影・文/内埜さくら>

内埜さくら(うちの・さくら)●2004年からフリーライターとして活動開始。これまでのインタビュー人数は3800人以上(対象年齢は12歳から80歳)。俳優、ミュージシャン、芸人など第一線で活躍する著名人やビジネス、医療、経済や一般人まで幅広く取材・執筆。女性の生き方や恋愛コラムも手がける。