そして、改めて遅刻の理由を問われると……。

「そこでふっと出たのが“向かい風”でした。それがすごくウケて“合格です”って。もちろん、スベったこともありましたね。そういうときは“おもんないです”って。遅刻したことよりも面白くないことを怒られました」(ぜんじろう、以下同)

 “芸人”としての生き方を学びながら、ぜんじろうは20歳を迎えた。

「そのときに、弟子を卒業したと思っています。“君、ちょっと伝えたいことがある”と、新地のクラブに呼ばれて“ま、お酒飲みなさい”って言われて」

《しばしの栄光に酔おうではないか》

 そこで伝えられた言葉は、今でも覚えているという。

「つらいときは飲みなさんなよ。お酒を飲んだから楽しいんじゃなくて、楽しいからお酒を飲みなさい。人生もそうです。成功したから楽しいんじゃなくて、楽しいから生きなさい。芸人もそうです。レギュラーが増えたとか、笑いが取れたから楽しいんじゃなくて、楽しいからこの世界でやりなさい

 ただ、弱冠ハタチのぜんじろうには、難しかったそう。

“おっちゃん、話が長いな”なんて思いながら聞いていました(笑)。でも、改めて思い出すと、すごい哲学を教えていただいていたんだなと思います」

 上岡さんは55歳で芸能界引退を宣言。58歳で引退した。

「僕も今、55歳になりましたが、命ある限りは芸人をやっていこうと思っています。最近の若い人は上岡龍太郎を知らないんです。“ヨガの人ですか?”なんて言われるんですが、それ、片岡鶴太郎さんですからね(笑)。なので、上岡龍太郎という素晴らしい芸人がいたことを若い人にも伝えていきたいです。そこでスベったら師匠のせいにしますね! それもあなたの教えですからね!」

 ぜんじろうが、宝にしている上岡さんからの手紙には、こう記してある。

《殺気に満ちた目をいつまでも。長いものには巻かれるな。大樹の陰にはよりつくな。いつか落ちるんだ。しばしの栄光に酔おうではないか。上岡龍太郎》─。