重度の障がい者も雇用できる体制を
創業から7年が過ぎた'21年に新たな工場が完成した。きっかけはSNSなどで寄せられた批判の声だ。
《久遠チョコレート、軽度な人しか働いてない》
それで夏目さんの闘争心に火がつく。重度の障がい者でも稼げる場所をと考えてつくったのが「パウダーラボ」だ。
「みんな最初はじっとしていることすらできなくて、あちこち自由に行っちゃう。重い知的障がいで言葉をほとんど話せない人もいます。どうしたら彼らと一緒に働いていけるかと逆転の発想で考えて、チョコレートに混ぜる素材を粉砕する作業をやってもらったら、バチッとハマって。何時間でもやり続けてくれたんですね。たぶん自分が必要とされていると、感じてくれたんだと思います」
それまで粉砕は2000万円かけて外部に依頼していたのだが、小ロットでは機械を回してくれないのが悩みだった。手作業なら、どんな素材でも少量ずつ粉砕できる。しかも石臼でひいた茶葉は香りが損なわれず、商品の幅が一気に増えた。
ところが、思わぬところでつまずく。作業中にチック症の発作が出て床をドンドン踏み鳴らしてしまう男性がいて、階下の住人から苦情が来たのだ。夏目さんは男性がどんなに音を立ててもいいように、1階の物件を借りて2軒目のラボをつくった。
「彼に辞めてもらう選択肢はまったくなかったですね。経費が800万円かかってビビりましたけど(笑)、外注率は下がったので、結果的に会社は強くなりました」
ラボで働く人の時給は500円前後。1日5時間働くと月給は約5万円だ。それまで福祉作業所で月給3千~4千円で働いていた人が多いので、「十分すごい」と称賛されるが、夏目さんは「あと500円、努力が足りない」と満足していない。
久遠チョコレートがユニークな点は他にもある。全国にある店舗のほとんどはフランチャイズ店で、直営店である豊橋本店ができたのは5店舗目だ。店で販売する商品の6割を各店舗で製造し、4割は本社工場から送る仕組みになっている。
全国の福祉法人や企業などから出店したいという申し出は月に何十件も来るが、出店までこぎつけるのは年に5~8店。1年間かけてとことん話し合い、共鳴できた相手とだけ組むからだ。
「チョコレートを通じて何をしたいのか。そこに明確で、かつ太い使命があるかを大事にしています」