目標は名実ともに一流になること
例えば、名古屋にある店舗では2階に医療的ケア児を預かるデイサービスをつくり、その子どもたちの母親が店で働いている。
阪神・淡路大震災で壊滅的な被害を受けた神戸市長田区にも店ができた。お年寄りや働く母親を支援する会社の「シャッター街になった街を元気にしたい」という思いに応えたのだ。
大阪の高級歓楽街である北新地には子どもの貧困を支援する団体が店を構えている。
「北新地の店には座って2万、3万円の世界がある。そっちでたくさんチョコを売って、車で15分のところにある母子家庭の多いエリアに利益を流したいと言われて(笑)。利益は大事ですよ。利益がなかったら継続しないから」
久遠チョコレートの名前が知られるにつれ、夏目さんもメディアに取り上げられる機会が増えてきた。今年の1月には『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)に出演。2月には失敗続きの半生をつづった初の著書『温めれば、何度だってやり直せる チョコレートが変える「働く」と「稼ぐ」の未来』(講談社)が出版された。
今後の目標は名実ともに一流になることだ。
「“150ブランドが集まるチョコの祭典で1位になる”とか言うと、まだ鼻で笑われますが(笑)。でも、僕が50歳になる4年後には上場したいと本気で思っています。別にお金とか名誉が欲しいわけじゃないですよ。うちが上場したら、僕たちが目指していることが、わかりやすく伝わるんじゃないかなと」
夏目さんの師匠である野口さんは、それも実現可能だと言い切る。
「久遠は応援してくれる人がいっぱいいるし、作っている人の顔が見れるんだもん。久遠がダメになるようなら日本は終わるよ」
久遠チョコレートの「久遠」は日本古来の言葉で「脈々と続く」という意味がある。ずっと長く続いていくブランドであってほしいという願いを込めて夏目さんが命名した。
「過去を振り返ったとき、障がいがあるというだけで働き場所が全然ない、アホみたいな時代があったねと言えるようになるといいなと思って」
久遠チョコレートの後に続く会社が次々現れて、夏目さんが願う未来が実現したら─、誰もが生きやすくなるに違いない。
<取材・文/萩原絹代>