高額な先進医療費もすべて保険でカバー
ところで、がん治療で気になるのは医療費がどのくらいかかるかだ。
村野さんが受けた陽子線治療は、従来の放射線治療(光子線であるエックス線を用いる)とは異なる陽子線を使用する高度な医療技術のため先進医療にあたる。
よって保険診療にはならずに全額自己負担だったが、民間の医療保険でカバーできたのだそう(抗がん剤治療は保険診療)。
「40代のころからがん保険には入っていたのですが、70歳になる前にそろそろ先進医療保険に入っていたほうがいいですよと保険屋さんに言われて、1年前に保険内容を見直したところでした。
治療費が230万円くらいかかると言われましたが、この保険が使えたから費用面の心配もなかったので本当によかった。結果的にほとんどタダみたいな金額でしたね。
今は中咽頭がんの陽子線治療も標準治療として保険適用になったようですが、保険が利くといっても結局は3割負担だから70万円くらいかかっちゃいます。そう考えると、ある程度の年齢がきたら保険内容を見直しておいたほうがいいかなとも思います」
声帯が残ったことにも感謝して、2017年には39年ぶりに『ハマナス』という新曲も発表。もうすぐ治療から9年を迎える。
都内にある南東北病院の連携医療機関で定期的に検査を受けているが、再発も転移もない。死を覚悟したステージ4から見事、完治したのだ。
「今言えることは、たとえ末期でも命がある限り、絶対にあきらめちゃダメだということですね。とにかく調べること。私の場合は妻がインターネットで調べ上げてくれたおかげで自分に合った治療法ができる病院に出合えました。
だから今、こうして生きている。一人の先生にダメだと言われても自分の命なんだからあきらめちゃいけない。必ず道は開けると信じてセカンドオピニオンやサードオピニオンを受けることも大切だということもしっかり伝えたいですね」
お話をしてくれたのは……村野武範さん●1945年生まれ。早稲田大学商学部卒業。文学座出身。俳優として幅広い層から人気を博し、現在も多方面で活躍中。2017年9月に新曲『ハマナス』をリリース。
取材・文/佐藤晶子