ストレスが最後のひと押しに
さまざまな治療を受けた小林先生だが、何より救われたのはがんサバイバーとの交流だった。
「サバイバーさんたちが開催するトークライブを見に行った際に、がん患者もこんなに幸せな表情で過ごせるんだ、がんは決して敗北ではないんだと感じて、心が救われたんです。再発や死への恐怖がゼロになることはありませんでしたが、サバイバー仲間のおかげで、次第に心残りはないという心境になっていきました」
こうした経験から、手術や抗がん剤といった治療の効果を高めるには、心の平穏がとても重要だと考えるようになっていく。外科医時代には考えもしなかったことだ。
「がんの原因は生活習慣などいろいろなことがいわれていますが、最後のひと押しはストレスが多いのではないかと思っています。もしかしたら昔から抱えていた生きづらさが限界を迎えて病気になったのかもしれません。僕はもともと頼まれたら嫌と言えない人間でしたが、がんになってからは自分の気持ちを優先して相手にニーズを伝えられるようになり、楽になりました。もし病気になったら、治療を頑張るだけでなく、自分自身を見つめ直して楽に生きられる方法を探ってみてほしいですね」
がん患者になってわかったこと
(1)多くのがん患者や家族は、医師の前では見せない、葛藤や苦しみを抱えている
(2)治療は、自分の生き方や価値観と照らし合わせ、どうしていきたいかを考えながら主体的に決めることが重要
(3)長年のストレスから自分を解放して楽になることも、がん治療にとっては大切
小林正学先生●岡崎ゆうあいクリニック院長。内科、外科、皮膚科などの他、高圧水素酸素治療をはじめとしたがん治療も提供している。著書に『医師が本音で探したがん治療』(明窓出版)など。
取材・文/井上真規子