ネットで「男を騙して金を取ったクソババア」などと叩かれ、さらに番組で共演していた仕事関係者のSNSでも、高橋さんを加害者と決めつけて批判する投稿が繰り返された。

加害者の急死で仕事をすべて失った

 逮捕から1か月後に加害者が事故で急死し、事態は悪化。「逮捕を苦にしての自殺か」と報じられ、死に追い込んだのは高橋さんのせいだとネットは大炎上。高橋さんは競輪番組を降板させられ、仕事をすべて失った。

「人間関係もほとんど切られ、加害男性の言葉どおり、社会的に抹殺されました」

 スマホには複数の匿名アカウントから「人殺し」「今日は何時に首吊るんですか」と毎日メッセージが届くように。地元にも噂が広まり、人が怖くなって家から出られなくなった。

「匿名での誹謗中傷は、暗闇の中、槍で身体を刺されるような痛みと恐怖でした。家には頼んでいない荷物が届き、いたずら電話も鳴りやまない。庭に首を切られた猫の死骸が置かれていたことも。私は誰かに殺されてしまうんだと思いました」

 地獄の毎日から逃れたいと何度も自殺未遂をしたが、事件の直前に母親を亡くし、残された父親と愛犬を残しては死んでも死にきれなかったという。

 1年以上たっても中傷はやまなかったが、あるニュースが高橋さんの転機になった。

「小学生がいじめと中傷を苦に自殺したという報道を見て、涙があふれました。誹謗中傷から子どもを守らなければと」

 事件以降は放心状態が続いて感情を失っていたが、久しぶりに悲しみに襲われたという。そして、以前から心にあった僧侶への道を考える。

「実は私の母方の祖父が天台宗の僧侶で、幼少時からあこがれがありました。アナウンサーだった46歳の時に仏門に入る儀式である『得度』は済ませていたのですが、その後に行う僧侶になるための修行は、仕事が忙しく、できずにいました」

 何もかも失った今こそ僧侶になる時だと奮起した高橋さんは、'17年に腰まであった髪を剃り上げ、比叡山延暦寺で60日間の修行に入った。14キロ減量するほど過酷な修行を終えると、地獄を抜けて生まれ変わった気がしたという。

 戸籍名も「高橋美清」に変えて新たに歩き始めると同時に、誹謗中傷の加害者との面会を決めた。高橋さんへの脅迫文を書いた4人の男性が警察の捜査で特定されたのだ。中には一流大学出身のエリートもいた。

理由を聞くと、“人を殺した悪い女を裁いてやろうと思った”と。ゆがんだ正義感を振りかざして意見していたのです

 高橋さんの人生がいかに破壊されたかを伝え、最後は彼ら全員にこう言ったという。

「あなたが悪口を書いてくれたおかげで私は正式な僧侶になれました、感謝します」