ノーベル賞受賞者がお札になったら

 そして、3位にランクインを果たしたのは物理学者の湯川秀樹だ。

 アンケートには「彼のノーベル賞受賞のニュースは、戦後の暗い日本を明るくした」(兵庫県・69歳・男性)、「当時の日本人に自信と誇りを取り戻し、日本の未来は明るいと思わせてくれた。彼が研究していた『中間子』が何なのかはまったくわかりませんが……」(北海道・64歳・男性)など、彼の功績をたたえる声が多く寄せられている。

「湯川秀樹がお札の顔になるならば、誰も文句はないでしょう。日本人初のノーベル賞受賞者であり、世界的にも認知度が高く、写真も多い。いろいろな面でお札にうってつけの人物といえます」

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 そして2位に名を連ねたのは坂本龍馬

坂本龍馬像
坂本龍馬像

「大政奉還」の大仕事に力を尽くした幕末の志士だ。コメントを見ると「『日本を今一度せんたくいたし申候』など、数々の名言を持つ偉人。立ち姿で片ひじを台についている有名な肖像画を紙幣に描いたらインパクトがありそう」(栃木県・57歳・男性)、「幕末のヒーロー的存在。みんな知っているし人気もある。お札にしたら、机の上に飾って眺める人もいるだろう」(福岡県・65歳・男性)など、各年代から厚い支持を得た。

「司馬遼太郎さんの小説『竜馬がゆく』で描かれた、颯爽としたヒーロー像にはかなり脚色があり、実際はもっと現実的な人物だったようですが、前向きだし、幕末維新の人物の中で珍しくアンチがいないのでいいと思います」

 そして栄えある第1位は、“漫画の神様”こと手塚治虫

手塚治虫 写真/共同通信
手塚治虫 写真/共同通信

「漫画を描くだけではなく、医学部の出身なのでいろいろな知識を読者に提供してくれた。『鉄腕アトム』をはじめ、未来の社会を描いた作品も多いので、子どもたちに夢を与えた功績は大きい。実際、手塚漫画の一部が現実化しているものもある」(新潟県・68歳・男性)など、作品の魅力を語る声が多い。

 また「手塚治虫さんとキャラクターたちがお札になったら、持っているだけで幸せな気分になりそう」(愛知県・50歳・男性)、「アトムと一緒にお札になってほしい」(大阪府・55歳・女性)など、彼が生み出したキャラクターが紙幣に描かれる案も。とてもにぎやかなお札になりそうだが……。

「手塚治虫の遺した功績は大きく、知名度ももちろん申し分ない。しかし、ネックなのがベレー帽とメガネという、彼のトレードマークです。メガネだけならまだしも、帽子で髪形が隠れていると偽造のリスクが高まります。ただ、そろそろ芸術関係の偉人がお札の顔になる可能性もあるので、私は岡本太郎をおすすめします。とても華のある紙幣になるはずですよ」

 財務省のホームページによると、紙幣の改刷はおおよそ20年のサイクルで実施しているとのこと。2044年に“紙のお金”が残っているかは不明だが、ぜひこのランキングを参考にしてほしい。

大人男女1000人に聞いた「お札になってほしい偉人ランキング」

1位 手塚治虫(1928年 - 1989年) 153票
2位 坂本龍馬(1836年 - 1867年) 137票
3位 湯川秀樹(1907年 - 1981年) 116票
4位 卑弥呼(170年ごろ - 248年) 96票
4位 徳川家康(1543年 - 1616年) 96票
6位 織田信長(1534年 - 1582年) 75票
7位 伊能忠敬(1745年 - 1818年) 71票
8位 美空ひばり(1937年 - 1989年) 65票
9位 宮沢賢治(1896年 - 1933年) 64票
10位 長谷川町子(1920年 - 1992年) 63票

※インターネットアンケートサイト「Freeasy」にて5月中旬、全国の30歳以上70歳以下の男女1000人を対象に選択方式で実施

財務省が公表している紙幣に描かれている肖像画の基準
(1)偽造防止の観点から、なるべく精密な写真を入手できること
(2)肖像彫刻の観点からみて、品格のある紙幣にふさわしい肖像であること
(3)肖像の人物が国民各層に広く知られており、その業績が広く認められていることといった観点を踏まえて、明治以降の人物から採用しています。(財務省HPより)

八幡和郎●評論家、歴史作家、国士舘大学大学院客員教授。1951年、滋賀県大津市出身。東京大学法学部を経て1975年に通商産業省入省。入省後、官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。著書多数。最新刊は『紫式部と武将たちの「京都」』 (光文社知恵の森文庫)

取材・文/とみたまゆり