「夜逃げ」と聞いてどんなイメージを持つだろうか。借金取りから逃げるため、深夜に家財道具をトラックに積み込む一家? いや、夜逃げを望む依頼者の理由のほとんどは、ドメスティックバイオレンス、つまり“DV”から逃げたいという依頼なのだそう。
夜逃げのリアルな現場
「もう8年ぐらい夜逃げ屋で働いていますが、最初の仕事も直近の仕事もDV被害者の案件です。モラハラ、虐待を含むDVが、夜逃げの依頼の約70%を占めています」
と話すのは漫画家の宮野シンイチさん。ワケアリな人の引っ越しをサポートする「夜逃げ屋」で働きながら、その実体験を漫画にしている。
「被害者は老若男女問いませんが女性が多いです。ただ、男の人が被害者というケースもたくさん見てきました。被害者の方も加害者も本当に普通の人で。むしろ、加害者側は社会的に地位があって、周りからの信頼が厚いことも多いんです」
コロナ禍では外出自粛や在宅勤務で、夫婦間、家族間でのDV件数が増加したとも報じられたが。
「確かにコロナ禍ではDVの件数が増え、社会問題になりました。ですが、僕らの依頼が単純に増えたわけではないんです。僕が働いている夜逃げ屋の場合、まず差し迫った状況の方がサイトを見つけて、そこに書いてある電話番号やメールアドレスにこっそりと連絡をしてきます。
そこから加害者にバレないように、引っ越しの日取りや移転先などの段取りを秘密裏に進めていく。つまり、事前の準備がものをいうわけですが、在宅勤務や外出自粛で加害者が常にそばにいる状況だと、打ち合わせはおろか、依頼をしてくることすら難しかったようです」
依頼当日は何が起こるかわからない。宮野さんらスタッフは、あらゆる事態に備えて決行時間より数時間早く現場近くで待機する。
「依頼者の安全を確保しつつ、加害者がいないわずかな時間を狙って荷物を運び出します。普通の引っ越しとは違って事前に段ボールに荷物を入れてもらうことができない場合も多く、その場で梱包することも。忘れ物は絶対に取りに帰れないので、基本的に依頼者に同行してもらいながら荷物を運び出すんです」
また、ナンバープレートの特定を防ぐためトラックはレンタカーを利用するなど、細部にまで気を使うのだという。