子ども食堂でわかった親たちの再教育の必要性
それまで南谷さんは子育てをしながら自宅で学習塾を開いていたが、学習障害がある子どもが多いことに気づいた。
「話を聞いていくうちに、学習障害がある子どもは食生活にも問題があることが多かったのです。食事で障がいが治るわけではありませんが、おいしく、栄養バランスのとれた食事は心の安定につながります。勉強をサポートする以前に、問題を抱える子どもと親を食で支えていくべきではないかと思い、子ども食堂を始めることを考えました。料理は好きでしたし、息子のように発達障害があったり、生きづらさを抱えている子どもたちの居場所をつくってあげたいという思いもあったのです」
子ども食堂とは、子どもが一人でも行ける無料または低額の食堂で、食事提供、孤食の解消、食育、地域交流の場づくりなど目的はさまざまだ。現在、子ども食堂の数は全国で9000か所以上にも上るという。
南谷さんは、子ども食堂の運営を東京都や企業からの助成金や寄付で賄っている。当初はボランティアで行っていたが、たやすいことではなかった。
「まずボランティアのスタッフを確保するのが大変です。今は50食を4人で作っていますが、スタッフがお休みするとてんてこまいになってしまいます。また、支援を受けた金額の使途について報告書を作成したり、事務作業も大変で、無償で行うには限界がありました。現在はNPO法人を設立し、事業として行うようになりました」
南谷さんの「こども食堂サザンクロス」はクローズド型で、週に1回、シングルマザー、不登校の子ども、児童相談所から紹介されたケースの方にのみ食事を提供している。何を食べてもおいしいと子どもたちにも大好評だ。また、週2回の学習支援も行っている。
しかし、子ども食堂で気づいたのは、子どもだけでなく、親が問題を抱えているケースが多いことだった。
「病気で働けない、食材を渡しても料理が作れない、子どもにはコンビニのパンしか与えないといった状況で、親の再教育が必要だと思うことがしばしばあります。ずっと生活保護を受けながら来られている親子もいますが、親に前向きに生きる力を身につけていただかないと、貧困から一生抜け出せなくなります」
虐待やネグレクトを受けている子どももいて、ただ食事を提供するだけでなく、行政や専門家につなぐこともある。
「親から身の上相談をされたり、依存されたりすることもあり、子ども食堂の運営は心身共に負担の大きい業務で片手間にできるものではありません」
子ども食堂が必要ない社会が理想なのに、子ども食堂が美談として語られたり、どんどん増えていくことにも疑問を感じるという南谷さん。
「誰でも通える子ども食堂もありますが、本当に支援が必要な人に届いているのか、食事を提供するだけで子どもの人生が変わるのか疑問に思うこともあります。スタッフがモチベーションを保つのも大変です。子どもを見守っていくことは自分の使命だと思っていますが、私は間もなく還暦で、年齢的にもいつまでできるかはわかりません。この先、引き継いでくれる次世代の人を探しているところです」