中でも特に印象に残っているのは、映画のクライマックスのシーンの撮影だったという。
「夏場の窓を閉め切ったその現場が、意識がぼーっとしてしまうほどとんでもない暑さで、そのシーンは弓子が“乱歩の幻影”の確信に迫る重要な場面でした。そうした弓子の心情と、過酷な環境で私自身の振り絞る意識が共鳴して、一心不乱に演じることができたという感覚があったんです。あのシーンは一生忘れられないと思います」
“法学部出身”だからこそ挑みたい役
大学卒業後に女優としてのキャリアを歩み始めた彼女は、今年の5月に30歳の誕生日を迎えた。節目の年に何を思うのだろうか。
「20代はひたすら俳優という仕事と向き合い続けた時間でした。20代に入るまでまったく芸能の仕事に触れて来なかったので、どの現場にいっても全員が自分にとっては先輩という状況。この7年間はひたすら学びの連続でした」
演技の幅を広げ、初主演の座をも掴み取った今、新たな目標のひとつは“法学部出身”のバックグラウンドを生かすことにある。
「最近になって改めて、大学生のときに学んだ法律の面白さに気づかされることが増えていて、弁護士や検事の役に挑戦したいとも思っています。法律が必要となる場面には人間同士のドラマがあって、学生時代にはどちらかに感情移入してしまうことの難しさや葛藤を経験しました。
子どもの頃から法律に興味を持ち、人生の多くの時間と労力を費やし学んできたことだからこそ、そういう役を演じて社会に貢献できたらこれ以上のことはありません」
地に足を着け、一歩一歩着実に階段を登ってきた結城。『乱歩の幻影』には、そんな彼女の確かな実像がスクリーンに映し出されている。